困難を抱えた妊婦たちに支援の手を差し伸べる「妊娠SOS」。子ども家庭庁の発表によれば、虐待で死亡した子どもの約7割が0歳児であり、その背景には予期せぬ妊娠による孤立があります。予期せぬ妊娠、経済的困窮、精神的な不安定さ、それらを複合的に抱えた女性たちに、どのような支援が可能なのでしょうか。

民間支援の最前線で女性たちに寄り添う助産師と、支援体制の拡充に取り組む日本財団の担当者に、現状と課題について伺いました。

(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2025年9月30日放送・特集「困難を抱える若年女性や妊産婦への支援とは?」より。構成:加藤奈央)

「誰にも言えない」妊娠の現実

妊娠や出産に悩みを抱える方への支援に関する研修や周知啓発活動を行う、一般社団法人全国妊娠SOSネットワーク理事で助産師の赤尾さく美さんは、当初、全国各地にはそれぞれ独自に妊娠葛藤相談を受け付ける窓口がありましたが、対応の質にばらつきがあったといいます。

こうした背景から、赤尾さんは、2014年に養子縁組あっせん機関である一般社団法人ベアホープを現・代表理事と一緒に立ち上げ、翌年には仲間たちと全国妊娠SOSネットワークを設立しました。

赤尾さんが所属するベアホープには、主に妊娠後期や出産後に「産んでも育てられないと思う」「これ以上育てられない」という相談が多く寄せられます。一方、各地の妊娠SOS窓口には「これって妊娠でしょうか」といった妊娠不安や初期の相談が多いといいます。

相談する女性たちの背景は様々ですが、赤尾さんは「困窮と家庭の崩壊、孤立などから、誰にも相談できないケースが多い」と指摘します。その背景には、精神的な弱さ、気づかれなかった知的・発達の課題、虐待・DV、いじめの経験などが複合的に絡み合っていることが少なくありません。

日本財団公益事業部子ども支援チームの田中奈名子さんは、2015年から民間の妊娠SOS相談窓口への助成を行ってきました。田中さんは「表面的には親や家族に頼れない、家がない、帰れないという表現になりがちですが、なぜそのような状況になったのかという背景を見ると非常に複合的な理由があります」と語ります。

支援につながるための高い壁

こうした女性たちが医療機関や公的機関に繋がることは容易ではありません。赤尾さんは「誰にも知られたくない妊娠がベースにある場合、公的機関に言うと身内に伝わるのではないかという恐れがある」と説明します。

また「妊娠は保険適用にならないので、初診で行っても数千円かかります。お腹が大きくなればなるほど検査項目も増え、費用も万単位でかかっていく。そのお金を自分で払えないとわかっているので、余計に行かない」という経済的な壁も存在します。

さらに、妊婦に対する支援を受ける上で大きな障壁となっているのが住民票の問題です。「困っている妊婦さんほど住民票がある場所と居住地が異なるという傾向があります」と赤尾さん。これにより、支援がすぐに受けられず切れ目が生じることで、諦めてしまうケースもあるといいます。

また助産制度(経済的に困難な妊婦への出産費用の支援制度)が使える医療機関が限られていることも課題です。「県内にないとか、2箇所だけありますとか、ものすごく少ない。そうするとどうやってそこに通うのか、交通費はどこから出るのかという問題があり、制度を利用してもさらに出産費用の自己負担を強いられることも多い」と赤尾さんは指摘します。