今年9月の法改正により、住宅街などでクマなどを捕獲するために条件付きで猟銃を使うことができるようになりました。
猟銃を使う捕獲隊や、その使用の判断をする自治体は、この法改正とどのように向き合っているのでしょうか。

全国的にもクマ対策が喫緊の課題となっている今、石川県内の現状を取材しました。

5年前の2020年。

アビオシティ加賀・2020年


石川県加賀市のショッピングモールアビオシティ加賀にクマが侵入し、およそ13時間に及ぶ攻防は銃声によって終止符が打たれました。
このほかにも県内各地で人がクマに襲われる被害が相次いだ2020年。
当時、その要因と考えられていたのが、クマのえさとなるブナの大凶作です。


「秋の大事な食物がブナやミズナラなどのドングリ類。2020年はブナも水ナラも凶作。山の中にクマの餌がない状態。エサを求めてクマが里に下りてきた。そして人身被害が増えた年」

県立大学 大井徹特任教授



そして今年、県内は2020年以来のブナの大凶作となっています。

今年の県内のクマの目撃件数は9月までで235件。
2005年の調査開始以降、クマの目撃が最も多かった2005年と同じように推移しています。



全国的に増加するクマによる人身被害を食い止めようと今年9月、緊急猟銃の使用に関する法改正が行われました。

これまでは人の命に危険が及ぶ場合に限って警察の立ち合いのもとクマへの発砲が許可されていましたが、今回の法改正ではクマなどが人間の生活圏に入った時点で一定の条件を満たせば、捕獲のために発砲することができるように。

県立大学大井徹特任教授は「現場ではいろんな状況が起こる。色んな状況に対応するための条件を整えたのが今回のメリット」と話します。

法改正を受け現在、県内の各市町では実際に発砲する場面を想定しマニュアルの整備や実地訓練を行っています。

実地訓練・白山市



9月29日に訓練が行われた白山市内では、今年、クマの出没が42件確認されています。6月には小学校の近くでも出没しています。
えさを求めて、山から住宅街まで降りてくるようになったクマ。

住宅街での発砲を行う際、自治体はどのようなことを考える必要があるのでしょうか。


「どこがバックストップになるかを考慮しつつ、一番安全な方法はすぐ近くにある建物の屋根に捕獲者を配置したり、近くの家の二階をお借りできれば射線の角度を設けて地面をバックストップにすれば緊急銃猟という形での対応の一つの考えになるのでは」

今回の法改正では、緊急銃猟の実施について、自治体が次の4つの条件で判断することになっています。


・銃を向ける先が畑や河川など銃弾が跳ね返らない場所か、

・近くにガソリンなどの引火物がないかなど

チェックリストに基づいた状況判断を行い、住民の安全を確保します。
数多くのチェック項目で安全性を確保します。
しかし、住民からは疑問の声も。

「10分も経ったら1キロも2キロも向こうに行ってしまう。そんなの撃てるはずがない。」

また、猟銃使用の判断を求められる自治体の職員は…。

白山市森林対策課 森和弘 課長

「現場での経験も大事になってくるがなかなか緊急銃猟の現場もそうあることではない。毎年できれば県にも協力してもらいながら訓練を積極的に白山市で行っていただければそれなりには経験値ができて担当が移動したとしても引き継がれていけるのでは」

一方で、現場でクマの駆除にあたる捕獲隊のメンバーは、今回の法改正が大きな一歩になると話します。

「猟友会と警察と白山市とという形で三者が色んな形で話をしてその時その時の現状においてどう対処すればいいのかすぐに話し合いができる。3つが揃って話し合いができることが第一進歩。それが一番だと思う。」



緊急銃猟への期待や不安。

今回の法改正が効果を発揮するために、いまだ課題は多く残っています。

県内の各市町村での対応はどうなっているのでしょうか?

県内の各市町村にはマニュアル整備や発砲の際の損失に備えて保険に加入するなど様々な対応が求められています。

現在、マニュアルの整備が完了しているのは、

クマの目撃件数が多い加賀地方の5つの自治体に加えて、宝達志水町の県内6つの市町にとどまり、その他の地域は現在、整備を進めています。

マニュアル整備を行う自治体では、国の周知から法改正までの期間が短かったことや能登地域ではクマ出没の事例が少ないといった声が聞かれました。

さらに、猟銃を扱える人員の確保や自治体職員の教育など解決すべき課題が浮き彫りとなっています。

住民の安全確保のために、法改正だけで終わらせず、実用的な運用をするための準備が求められています。