「お前早すぎやろ。練習終わりでええか」
朝いちばんでナゴヤ球場に出向き、何度も話しかけるシミュレーションをしていると、中田選手の車が来た。
前日の記憶がフラッシュバックし、不安な気持ちが大きくなる。そして大柄の男が車を降りてきた。
「お前早すぎやろ。取材、練習終わりでええか」
このパターンのシミュレーションはしていなかった。呆気に取られている私に「なんか言えや」と中田選手は言う。「ハイ!お願いします!」めちゃくちゃ大きな声で返事をした。
そして練習後、中田選手は腰に対する不安、自分の今の気持ちを正直に話してくれた。「ありがとうございました!」取材後にお礼を言うと
「お疲れさん、編集頑張ってな」

怖いのか優しいのか分からなくなった。でもその人柄に強く惹かれた。だからここからは、かつてテレビで見ていた「中田選手」ではなく、あえて「中田さん」と呼ばせていただく。
若手ディレクターはファームの取材を担当することが多い。もれなく私もほぼ毎日ナゴヤ球場にいた。あの取材から2週間ほどが経ったある日、中田さんから話しかけられた。
「お前毎日おるな、何してんの?」「今日ホント暑いな」
気さくに話しかけてくれた中田さんと数分間、世間話をした。私にとっては夢のような時間。一生忘れることはない。今年に入ってからも「暑い中よう頑張ってるな」と声を掛けてくれる。ただただ怖かった初対面のときが、遥か昔のように感じられた。
そんな中田さんとの会話のなかで印象に残っている言葉がある。
「今のドラゴンズの若い子たちはほんとに頑張ってる。才能ある子がいっぱい。ナゴヤ球場で一緒に汗を流しててすごく感じる」
腰の状態が万全ではなく、長引く2軍暮らし。そんなときに中田さんは、自分のことではなく、後輩のことを気にかけていた。














