2025年は昭和元年から数えて100年目。時代を超えて愛され続ける名店の味を紹介します。今回は、86歳の女性が1人で切り盛りする静岡県長泉町の「富士見軒」。常連客もお店を支えます。
<富士見軒 秋元淑恵さん>
「手っ取り早くやらないと、仕事が回らないから。体が動くでしょ。少しは。ははは」
厨房を軽やかなフットワークで駆け回るのは、秋元淑恵さん86歳です。かつ丼の調理が始まると、まずはスープの準備。創業以来、継ぎ足しの醤油ダレを器に次ぎます。油の温度をチェック。86歳のワンオペ調理は無駄のない動きで進みます。
一番人気のカツ丼(上)は、67年前の創業当時のままの味です。
<秋元淑恵さん>
「お待たせしました。スープは味濃かったら言ってください。薄めますので」
<客>
「おー!」
一番人気のカツ丼(上)。67年前の創業当時のままの味です。
<初めて来た客>
Q. 蓋を開けた時に驚かれてましたか?
「見た目が自分好みのカツ丼だったので。とてもおいしそうに見えました」
店は沼津市と御殿場市を結ぶ旧国道246号沿いにあります。約10年前の取材でも注目したのは、創業以来継ぎ足しで使っているタレの「甕(かめ)」でした。甕は今も現役で店を見守り続けています。
富士見軒は昭和33年(1958年)、夫・良郎さんの両親が創業。7年後に淑恵さんは良郎さんと結婚し、スクーターで出前によく出かけました。先代の両親、そして約30年前に良郎さんも亡くなり、以来ずっと秋元さんが1人で店を守っています。
<客>
「ビール飲みますよ。私は」
<秋元さん>
「飲んでください。いっぱい。歩いて帰れる程度に飲んでね」
Q. いつもつまみはセルフサービスですか?
「セルフです。好きなだけ持ってって」
<常連客>
「私ができる範囲の気遣いをしてるつもりです」
そこには、常連客との阿吽の呼吸で生まれた“流儀”がありました。
その一、ビールとつまみは(できる限り)セルフサービス。
その二、女将さんではなく「お母さん」と呼ぶこと。
その三、(できる限り)片付けもセルフサービス。
もう一つのオススメはカツラーメン。カツの衣に鶏ガラのスープがしみて絶品です。
<秋元さん>
「先代も亡くなって、主人も亡くなって、1人になったけど、辞めたいと思ったことがなかったですね。だから、自分も元気でいる以上はお店は続けてみたいなって思います」