東京2025世界陸上日本勢メダル第1号となったのは、大会最初の種目、男子35km競歩の勝木隼人(34、自衛隊体育学校)だった。勝木は18年アジア大会金メダリストだが、19年ドーハ世界陸上50km競歩は27位。21年東京五輪50km競歩は正選手の辞退で出番が回ってきたが30位。18年アジア大会こそ金メダリストとなったが、途中でペナルティーゾーン(※)に入り、会心のレースではなかった。今回も選考競技会の成績から、代表3人中3番目的な存在といえた。その勝木が昨年のパリ五輪の選考レースには重きを置かず、今年の東京世界陸上に焦点を合わせてきた。

35km競歩がパリ五輪で行われなかったことを活用

勝木は21年東京五輪に50km競歩で出場後、種目の35km競歩への変更に伴いスピード強化の必要に迫られた。「35km競歩でメダルを取った選手たちは、20km競歩でも上位に入る選手ばかりです」(勝木)
 
スピードに劣る勝木は50km競歩では後方でレースを進め、後半で追い上げる展開が多かった。そのスタイルは35kmでは通用しない。20km競歩やトラックの10000m競歩に積極的に出場し、スピード強化を図りながら35km競歩の選考会に出場した。だが22年4月の日本選手権35km競歩は5位、23年4月の同大会は4位。2大会ともレース前半でトップから1分以上離され世界陸上代表入りを逃した。スピード強化が進んでいたとはいえなかった。
 
しかし24年パリ五輪は35km競歩が実施されなかった。勝木は20km競歩のパリ五輪選考会には出場したが、代表を狙うというよりスピード強化を目的とした。つまり23年のブダペスト世界陸上代表を逃して以降は、2シーズンをかけて課題のスピード強化と、暑熱環境下で行われる東京世界陸上用の暑さ対策ができた。

「昨年は涼しい場所には行かずに関東で、氷とか掛水を一度もしないで練習しました。(氷や水を使わず)体がどういう状態になるのか、何も取らない状態でどのくらいのペースで押して行けるのか、というところがわかってきましたね。今年は選考会も近くなるので氷で冷やしたり、レースに近いこともやったりましたが、この2年間の暑さ対策は他の選手に引けはとりません。そこはアドバンテージだと思っていました」

そしてスピードの方も、昨年3月の全日本競歩能美大会20kmで1時間18分43秒と、自己記録を4分10秒も更新。今年2月の日本選手権20kmでは3枚警告を出され、ペナルティゾーンで2分待機を命じられたが、1時間19分55秒で歩ききった。「(待機時間の2分を)差し引くと1時間17分台でした。元々50kmに出場してきたので体力はありましたが、体も2年間で大きく変わってスピードがつき、僕にとってはかなりのプラスでした」
 
暑さ対策とスピード強化、東京世界陸上に向けての準備が大きく進んだ2年間だった。