高山植物の宝庫、南アルプス。しかし、いま、その生態系が静かに崩れつつあるのをご存知でしょうか。今回、その現場と保全の取り組みを取材しました。

<十山 鈴木康平社長>
「山頂です」

<社会部 大西晴季記者>
「千枚岳の山頂ですか。やりました!ここの標高はどのくらい?」

<鈴木社長>
「2880メートルですね。冬に季節風と雪が強くて高い木が育たない、そんな場所です」

静岡県最北端に位置する南アルプス。3000メートル級の山々が連なり、氷河期の頃からこの地に生息する可憐な花々が咲き誇ります。しかしいま、その自然が危機に瀕しています。

<鈴木社長>
「あちらをご覧いただきたいのですが、ハイマツに囲まれた草地があるんですが。下半分の方が植物が少し薄くて、地面がうっすら見えるかたちになっている。ニホンジカが上がってきていて、こういった植物を食べてしまう」

原因はニホンジカによる食害。地球温暖化の影響で、標高の高い所まで上がってきているのです。その結果、生える植物が少なくなり、豊かな自然が失われつつあります。

そこで、土地の所有者である特種東海製紙グループの管理会社「十山」は静岡市などと連携しながら、15年ほど前から防鹿柵と呼ばれるシカよけの柵を設置。2025年は、山の中腹にも取り付け、斜面を囲っていま残る植物を守ります。

<鈴木社長>
「これ、まだ設置して2週間ほどなので(柵の)中と外の違いが出てきていませんが、2年ぐらいすると差が出てきてくるのかな」

脅威はシカだけではありません。

標高約2600メートルにある千枚小屋。本来生えていなかったシロツメクサが広がっています。

<鈴木社長>
Q.いままでクローバー(シロツメクサ)は南アルプスには生えていた?
「本来は無かったんですが、色んな人間の活動によって種子が持ち込まれ。人間(登山者)の靴にくっついていることもあれば、荷物にくっついていくこともあると考えられる」

本来ならその地域に生えていない植物が広がれば、固有の生態系を失う恐れがあります。そこで、十山は登山客によって他の地域から植物の種が持ち込まれるのを防ごうとこの夏、ブラシと看板を6か所の登山口に設置しました。

<岡山から来た登山客>
「(自分たちは)山にとっては、悪い影響を与えているものだと思うので、私たちの意識改革もしなきゃいけないけど、サポートしてくれる皆さんがいてくれるとありがたい」

シカよけの柵とブラシの設置。十山と、親会社・特種東海製紙、大成建設との環境保全に関する3社協定に基づき実施されました。ブラシの設置には、地元の家具部品メーカーも協力。地域と企業が一体となって“静岡の宝”を守ろうとしています。

<特種東海製紙 田中秀紀自然環境活用本部長>
「南アルプスの静岡側は人があまり訪れず秘境と言われる場所でもある。多くの人に知ってもらって来てもらって自然と共生しながら、よりこの自然を生かして(残して)いけるような場にしていきたい」

脅かされる自然を前に、人と自然が共に生きる道をどう築いていくのか。私たち一人一人の意識にかかっています。