托卵を成功させるための作戦とは

「対するブルービーも、なんとかして『托卵』を成功させようとします。産卵のタイミングを正確に計って留守を狙う緻密さを持ち、さらにオオセイボウは『家主に見つかったら丸まって防御』戦術を発達させました。

硬い外骨格で体を丸めると、相手の大顎でも歯が立たず、ダンゴムシのように丸まったオオセイボウをコロン!と捨ててしまうことしかできません。

寄生と防御のせめぎ合いは専門用語では『共進化』と呼ばれる軍拡競争であり、両者は世代を重ねながら互いに戦略を磨き続けてきました。

こうしてみると、ブルービーはずいぶん『ズルい』生き方に見えます。けれど、労働寄生は自然全体からみれば単なる悪事ではありません。

ブルービーに寄生されることで、寄生されてしまったハチは子孫を残すことはできませんが、その地域全体で見ると寄生されてしまったハチの個体数は次世代では増えすぎず、結果的に生態系全体のバランスが保たれます。

たとえばスズバチが減れば、彼らが狩るシャクトリムシの数も維持され、食物連鎖全体の均衡が保てるのです。

さらに、ブルービー自身も追い払われることが多く、寄生先より数が多くなることはなく、相手を絶滅させることもありません」

「自然界は『利用する者』と『利用される者』のせめぎ合いで成り立っています。ブルービーは、その均衡を支える重要なピースのひとつなのです。

『幸せのブルービー』は、その美しさと裏腹に、厳しい自然界をしたたかに生き抜く寄生者です。

花畑で見かけるその輝きは、ただの癒しではなく、数百万年に及ぶ進化の物語の結晶でもあるのです。

そんな生き物のドラマにも思いをはせつつ、美しい姿をいつまでも私たちに見せてほしいですね」