■「結果的にアメリカを利しているというのはロシアからすると忸怩たる思い」
今年になってEU首脳の“カタール詣で“が顕著だ。3月イタリア首相、5月スロベニア大統領、8月ギリシャ首相、9月ドイツ首相などなど。みな、ロシアから来なくなった天然ガスの代替をカタールに求める。これによって価格は上昇しているわけだが、そもそもなぜカタールなのだろうか。天然ガスの生産量は、1位アメリカ、2位ロシア、3位イラン、4位中国、5位カナダ、そして6位がカタールだ。
立教大学 蓮見雄 教授
「カタールは供給余力があるということ。アメリカは最大の生産国ですが自分の所で大量に使ってしまいますから・・・」ロシアはもちろん、イランも制裁対象国で、買うわけにはいかない。中国はアメリカ同様、自国で消費する。ということでEU首脳はカタール詣でとなった。結果カタールの貿易黒字額は今年春以降跳ね上がっている。だが、実はこの天然ガスの高騰で笑顔がこぼれる国はカタールばかりではなかった・・・。
アメリカだ。アメリカは天然ガスの生産量は世界一だが、輸出量は大きくなかった。ところが今回のエネルギー危機によって、今年上半期の輸出量は実に約3億1700万立方メートル。これは世界一の数字だ。つまりアメリカは世界最大のLNG輸出国となった。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「アメリカはシェールガス革命によって、ヘンリーハブ(天然ガス指標価格)がお安い。液化コスト、輸送コストを乗せても、世界市場を狙っていける。ただこれからどのくらい伸びるかは、意見が分かれる(中略)今ガスの価格が高いから輸出できるけれど、価格が安定してからも供給を続けられるかどうか。二の足を踏むんじゃないか・・・。カタールと並んでアメリカの動向がエネルギー価格において重要」
化石燃料をやめようとする世界の潮流があり、比較的CO2の排出が少ない天然ガスは“つなぎのエネルギー”として必要だ。結局エネルギー市場でも、アメリカが世界をリードしくいくのだろう。この状況をプーチン大統領はどう思っているのだろうか…。
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究所
「結果的にアメリカを利しているというのは、ロシアからすると忸怩たる思いがある。ただロシアのエネルギーを市場から排除することが世界のインフレを高める。そこにプーチン大統領の政治的狙いっていうのがあって…。とにかくインフレが高まれば、ウクライナに対する支援疲れであったり、早く戦争をやめて欲しいっていう国際世論が、ウクライナ側への圧力となったりする。そういう政治的揺さぶりのためにエネルギーを武器にしている」プーチン氏には自国の経済的損失などより、西側を混乱させる政治的思惑が優先される。確かに経済合理性を考えられるなら戦争など始めるはずもない。