育てられない赤ちゃんを匿名で受け入れる「こうのとりのゆりかご」、このゆりかごに預けられた男性が、10日、富山県射水市で講演を行いました。

射水市で講演を行ったのは、熊本県立大学4年の宮津航一さんです。宮津さんの話を聞きに、民生児童委員などおよそ130人が集まりました。

宮津航一さん「2007年5月10日、こうのとりのゆりかご、みなさんご存じですか、こうのとりのゆりかご。この開設初日、3歳で預けられた1人目の当事者になります」

宮津さんは、3歳の時に熊本市の慈恵病院が開設した「こうのとりのゆりかご」、いわゆる「赤ちゃんポスト」に預けられました。

宮津航一さん「ひとつだけ鮮明に残っている記憶がありますね、それは何かっていうとこのゆりかごの扉の絵とこの外観。そして私はこのゆりかごに体育座りをしてちょこんと座ってたって聞いています」

その後、里子として宮津さん夫婦に迎えられ、5人の兄と一緒にたくさんの愛情を受けながら育てられたといいます。

宮津航一さん「実子だからとか里子だからとか特別視もされずに、ひとつの家族として血縁を越えた絆で結ばれた家族として、この家族を作っていこうということで、本当にみんながかわいがってくれたのを覚えています」

宮津さんは18歳で自分の生い立ちを公表。現在、講演活動のほか、「子ども大学」を創設して子どもの居場所づくりのため精力的に活動しています。

宮津航一さん「私がなんでみなさんにこうやってお話ができているかというと、それは里親の両親からしっかりとこれまでの歩み、生い立ちを教えてもらったからなんですね。少しでも前向きに自分の生い立ちをとらえられるように伝えていこう、そう決めて、私に事あるごとに教えてくれました」

これまで「こうのとりのゆりかご」には193人が預けられました。

宮津さんは、自分と同じような境遇の子どもたちや家族が、少しでも歩きやすい社会になるように理解を広げるために、自身の思いを発信しているといいます。

宮津航一さん「『置かれた場所で咲きなさい』って言葉が私はものすごく心の支えになっていて。人とくらべるんじゃなくてその中で自分がどうやって花を咲かせられるか。そして、ここにいる大人のみなさんは、そういう子どもたちが本当に置かれた場所で花を咲かせられるような、そういう存在と理解、関わりをしていただければ、もっともっと幸せな社会ができるんじゃないかな」

この講演会は富山銀行新湊支店と一般社団法人ストレングスが企画したものです。

26年間里親をしているストレングスの本江裕子代表理事は、母親が追い込まれる前に地域で支える仕組みを作りたいと呼びかけました。

宮津航一さん「こういう当事者もいるんだっていう思いをもってもらったうえで、じゃあ自分に何ができるのかなっていうのをそれぞれが考えて動いてくださればいいと思うんですね。施設を作るのも一つだろうし、声かけをするのも一つだろうし。それぞれができる中で役割をやっていけば、自然と網目(=セーフティネット)って作られていくんじゃないかな」