重度の脳障がいがあった男性が死亡の前日に結んだ“自宅を売却する契約”は無効だとして、遺族が不動産会社側に対して損害賠償を求める裁判が始まりました。

 弟の遺影の前で自身の後悔を嘆く柳南秀さん(56)。今年6月に亡くなった弟の柳発秀さん(当時51)は、5年前の2017年に交通事故で高次脳機能障害となり、記憶力や認知機能が大きく低下しました。

 (発秀さんの兄 柳南秀さん)
 「本当に後悔して、親が亡くなった時も泣かなかったんですけど、弟が亡くなった後は1週間2週間、毎日毎日涙が出てきて。人生、生まれてきてこんなに後悔したことないというか」

 障がい者手帳の交付を受け、就労支援施設に通いながら大阪市内にある自宅でひとり暮らしを続けていましたが、今年の初めごろには基本的な生活にも支障が出るようになっていたといいます。発秀さんは今年6月に自宅とは別の集合住宅で倒れているのが見つかり、搬送先の病院で亡くなりました。

 集合住宅に転居していたことを不審に思った遺族らが調べたところ、発秀さんが死亡する前日に大阪市内の不動産業者に自宅を売却する契約を結んでいたことが判明。しかし口座に売却代金の入金履歴はなく、売買契約書に直筆の署名はありませんでした。

 (発秀さんの兄 柳南秀さん)
 「署名何もないです。住所どころか名前も書いていないので自分では。売買契約を亡くなる前日に行っているわけですから慌てて作ったとしか言いようがない。前日にまともな精神状態であったとは思えないです。メンタル的にも肉体的にも契約すると思いますか?」

 不動産会社に自宅を売却した経緯などについてたずねると、会社役員が発秀さんに2200万円を貸していたとする借用書などを示し、『売却代金は発秀さんの借金の返済に充てられた』などと説明したといいます。

 記者は不動産会社を直撃しましたが応答はありませんでした。その後、電話をかけてみましたが出ることはありませんでした。

 発秀さんの兄・南秀さんら遺族は、「契約時に発秀さんに内容を理解できる能力はなく契約は無効」として、業者側に対して2150万円の損害賠償を求めて提訴。11月17日に始まった裁判で業者側は「言葉でのやりとりや理解は十分であった」などとして訴えを退けるよう求めました。