“田中流”の日本選手権に集中した戦い方
田中陣営は今回の日本選手権を、自身の立ち位置を確認する好機と考えた。世界トップ選手たちと常に戦っているとはいえ、グランドスラムトラック(今季新設された大会で1試合で3000mと5000mの2レースを走る。当初は4大会の予定だったが3大会に)では7~8位、ダイヤモンドリーグでは11~14位と、満足のいく成績を残せていない。
「あれも欲しい、これも欲しいと手を出し過ぎて、元の自分の姿がわからなくなってしまっていました。色々手を伸ばして掴もうとしていたところや、掴んで手を離さなかった部分を一度、全て手放したことが今回の走りにつながりました」
日本選手権もこれまで、選考基準をクリアして世界大会につなげることをメインに考えることが多かった。また3種目に出場するなど、さまざまなテーマを設定していくつものトライをしてきた。しかし「世界を意識しすぎてぼやけたレースが多かった」ことも事実である。
世界を相手に苦戦が続いている状況だからこそ、日本選手権に集中する方法を採った。父親でもある田中健智コーチは大会前の取材で「日本選手権を超えることで世界がある。走り方になるのか、記録になるのかわかりませんが“存在感”を示したい」と話していた。
残り4周だけで2位に13秒59差と5回の優勝中最大差をつけたこと、日本選手権初の14分台を出したことは、“存在感”を示したといえるだろう。世界陸上入賞に少し近づいた、と言えるかもしれない。
しかし田中自身は合格点を出していなかった。スパートした後のラスト4周を、1マイル(約1609m)の自己記録(4分28秒54)くらいで走ることを目標としたが、6~7秒及ばなかったのだ。
「璃梨佳ちゃんの後ろに付かせてもらって余裕を残せていたのに、自分が思ったよりは上がりきりませんでした。世界ではペース変動がある中で急激にペースが上がったり、最初からハイペースで行きながらさらにペースが上がったりします。そういった状況ではまだ全然力が出せないんじゃないか、という怖さはあります」
日本選手権を走った後に考えることはやはり、“世界でどう戦うか”である。存在感を示すことができても、田中自身が満足することはない。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

















