日本におよそ35万人が住んでいるとされるイスラム教徒。宗教上の理由から日本で生活するうえで、さまざまな“壁”がありますが、出産の現場でも課題が見えてきました。

中東・シリア出身のエルハム・シャフルルさん。3年前に来日し、日本で初めての出産を迎えますが…

エルハムさん
「私たちは自分たちを真のイスラム教徒だと考えていて、信仰を守りたいと思っています」

イスラム教徒ならではの苦労に直面しています。

エルハムさん
「病院を探すのはとても大変でした。長い間探しました」

エルハムさんにとって特に大きな課題は「女性医師に診てもらえるかどうか」。“顔と手以外の部分は、家族ではない男性の視線に触れないようにする”という宗教上の考え方から、イスラム教徒の女性の多くは、女性医師を希望します。

エルハムさんは条件に合う病院がなかなか見つからず、7か所以上もの病院に問い合わせました。

また、戒律で豚肉やアルコールなどが禁じられているため、食事にも制限があり、赤ちゃんが口にするものにも細心の注意を払います。

エルハムさん
「原材料を見る限り、宗教上許されているので、これを使います」

エルハムさんが通う病院では現状、イスラム教徒用のミルクがなく、病院と話し合ったうえで、自分で用意しました。

一方、病院側は…

横浜医療センター 産婦人科 栃尾梓 医師
「夜に分娩になったとき、男性医師しかいない場合とかになると、女性だけで対応するっていうのはやはり難しくなるかなと思うんですよね」

それでも、日本で暮らすイスラム教徒が増えるなか、病院側もそれぞれの希望にできる限り応えていきたいと考えています。

そして、再びエルハムさんを訪ねてみると、無事に元気な女の子が生まれていました。

懸念していた入院中の食事については、エルハムさんらの希望を聞いて、病院があるものを用意しました。

夫 サライジさん
「これは制限が書かれたカードです。ショートニング、アルコールなしと書いてあります」

魚や野菜をメインとし、禁じられた成分を含まないイスラム教に配慮した食事が提供されました。

エルハムさん
「私たちは病院側に希望をすべて伝えていたので、よりスムーズに出産できました」

“宗教の壁”を越え、安心して子どもを産める環境を。イスラム教徒の妊婦と病院の模索は続きます。