熊本県のまとめでは、2023年に熊本県内で宿泊した人は840万人と過去最多になりました。観光消費額も3700億円あまりと、こちらも過去最高となりました。

ただ、好調であればあるほど、受け皿の旅館などにとって悩ましいのが人手不足です。黒川温泉で始まった新たな取り組みです。

30の旅館・ホテルが軒を連ねる黒川温泉は、全国屈指の人気を誇ります。

記者「ゴールデンウイーク最終日、あいにくの天気になりましたが黒川温泉には
多くの人が訪れています」
東京から親子で「温泉に行ってきました。温かくて良かったです。滝をみながら入ってきました」
――黒川の魅力は?
東京から親子で「こういった温泉地と自然が豊かなところ」 ――どこから来ましたか?
イスラエルから「イスラエルから。旅行です、東京や京都、広島などを巡った。温泉文化を体験した」

インバウンドの増加も手伝い、黒川温泉は2024年の宿泊者も31万人と堅調です。ただ、手放しでは喜べない事情を抱えています。

黒川温泉「奥の湯」の音成貴道(おとなり たかみち)さん。父親の代から宿を切り盛りしています。
ゴールデンウィーク、予約は次々に入りましたが「満室」にはしませんでした。というのも・・・

黒川温泉「奥の湯」音成貴道さん「料理人であったり配膳をするスタッフが足りないという理由で、大体2割くらいの部屋は販売できない状態になっている」

帝国データバンクの調査によると、正社員が「不足している」と回答した旅館・ホテルは62.9%にも上り、全業種の平均を10%以上も上回っています。労働環境は売り手市場と言われる今、旅館ならではの働き方が人材確保のハードルになっているといいます。

黒川温泉「奥の湯」音成貴道さん「どうしても朝食と夕食の両方に対応するには、
朝食の準備から始まって夕食の後片付け、そうなると朝の7時くらいから夜の9時くらいまでという感じになり、長時間の労働になってしまう」
ニーズはあるのに応えられない・・・この状況を変えたいと音成さんは新たな取り組みを始めました。

去年9月に立ち上げた新たなレストラン街「Aukurokawa(アウ・クロカワ)」
もともと黒川温泉には飲食店が数軒しかありません。
そこで、観光客が宿以外でも食事できる場所を作ると同時に、宿の負担を減らせないかと考えました。

黒川温泉「奥の湯」音成貴道さん「宿泊とこの施設で食事をする、というのをセットで売り出していければ、旅館にとっては稼働率が上がる、飲食店にとっても集客に困らないで旅館の泊まり客が食べに来てもらえるというメリットがあるので」

これは、全国的にも広がっている宿泊と食事を別にする「泊食分離」というスタイルです。観光動向に詳しい専門家は・・・
JTB総合研究所 山下真輝 フェロー「宿で食べるという楽しみもある一方で、いかにその時の気分で食べたいものを食べる、地域のご当地のグルメを街なかで食べたいというニーズもある」

連泊する観光客にとっては食事の選択肢も広がる。宿以外で飲食することで地域全体にお金がまわる可能性も秘めています。音成さんのこの取組みに賛同する旅館もでてきました。
黒川温泉「奥の湯」音成貴道さん「まだ、何もない時に皆『この人、何を言っているんだろう』という状態だったが、北里さんだけが『僕は協力します』と皆の前で言ってくれた」
旅館の経営者たちも代替わりが進み、新たなことを始めないといけないという危機感があった、と話します。
旅館「湯本荘」北里文弥社長「どこの旅館の跡継ぎと話をしても、同じような悩みを抱えているのが多いので、ひとつでも新しい取り組みを始めるということはすごくいいことだと」
黒川温泉「奥の湯」音成貴道さん「これで今後このままでお客さんが来られない状況になった時に新しいことをやる余裕がないかもしれない。なので僕は今やっておくべきだと思う」
時代とともに観光のスタイルが変化し、利用客のニーズをうまく捉えて人手不足解消にもつなげることができるのか?新たな施設は2025年中のオープンを目指しています。