「50手先」を読み、「300年続く企業」を目指す

アームの買収時、孫氏は当時の記者会見で次のように話したといいます。

「分からないと思いますよ。この買収の意味が。囲碁で言うと50手先の手を打ったんだ」

アームが設計を手掛けた半導体はスマートフォンのCPUに広く使われていますが、すでに当時、スマートフォンは世界中に普及していました。それなのになぜ、孫氏は巨額の資金をアーム買収につぎ込んだのか。

杉本氏は、新たな時代をもたらすAIが必要とする2つの重要な技術、「クラウド」と「エッジAI」をアームが持っていることを孫氏が見抜いていたからだ、と説明します。

新たな時代の到来を誰よりも早くつかみ、覚悟を持って全てを賭ける。そんな孫氏が語っていたあるエピソードを杉本氏は紹介します。

「孫さんは面白いことを言っているんです。『宮本武蔵と織田信長、戦ったらどっちが強いと思う?』。それは武蔵ですよね、剣豪ですから。でも孫さんは『織田信長は宮本武蔵のことを一瞬たりとも敵だと思わないだろう。それは何かというと、戦い方が違うからだ』と。『武蔵のような武将を目指すのか、信長のような天下人を目指すのかで、戦い方は全く違うんだ』」

歴史を振り返っても、300年続くビジネスモデルや技術は存在せず、廃れるときが必ず来る。その兆しをとらえ続けなければ、情報産業で生き延びることはできない。ならば、一人で戦い続けるのではなく、豪傑たる武将たちを配下に揃えて世代交代を前提にした戦い方をしていくー。

「300年成長し続ける企業を作る」。孫氏がこだわって言い続けてきたという言葉の背後に、このような壮大な事業ビジョンがあることを杉本氏は指摘します。

「50手先」を読み、「300年成長を続ける」企業へー。

AIが世界を変えつつある現在、孫氏の「天下人」のビジョンが何を生み出していくのか。

「孫正義の物語はまだまだ終わらない」。

孫氏に関する自身の著書を、杉本氏はこう締めくくっています。