■人事の基準に“忠誠”は今度の内部規定に書いてある
党大会後新しい執行部「中央政治局常務委員」7人が発表された。発表の場では習近平氏に続いて序列順に登場する。7人のトップは李強氏。彼が実質中国のナンバー2となる。李強氏といえば上海のロックダウンで市民ともめた上海市のトップだった。あの混乱によって普通出世コースからは外れたと見られていた。だが彼は、習近平氏が浙江省のトップだった時代の秘書で、習氏の目の動きだけで行動がとれると揶揄されるほどに、従順である点では誰にも負けないという。更に他のメンバー6人もほぼすべて側近、かつての部下で固められた。チャイナ7という人もいるがさながら“イエスマン7”だ。一方で、胡錦濤氏を支えた李克強氏、その後継者といわれ実力のある胡春華副首相は降格し表舞台から完全に姿を消した。

元駐中国大使 宮本雄二氏
「人事の特徴は、もうバランスではなくて自分の系列の人を抜擢してこれまで強化してきた習近平路線、習近平思想を自分のチームで実施していくという強い意識。逆に言えばそれができるくらい習近平さんは力を持った(中略)・・・今度の人事をどう決めるか書いた内部規定を見たんですが、そこに“忠誠が大事”って書いてある。昇進のための基準に忠誠を使うって書いてあるんですよ。だから、胡春華も何か月か前に、習氏の名前を何度も使って功績を書いたりして忠誠をつくしたんですけど、ダメだった。習近平さんは自分のチームで、自分の考えを可及的速やかに実施ししていきたいと…」
李強氏がナンバー2に抜擢されたことは“忠誠第一”の表れといわれている。今回の党大会で新しいフェーズに入った習近平政権。気になる点は、人事だけではないという。
■「安定に必要なのは同質化~異質なものは許さない」
中国はこれまで経済発展を政策の中心に据えてきた。だがその中国経済が今、勢いをなくしている。そこにコロナが追い打ちをかけた形となり習近平新体制はこの危機をどう乗り切るのか世界が注目している。しかし、呉軍華氏は、中国の経済成長は終わり、習近平氏が既にシフトチェンジしている可能性を指摘する。
日本総研 上席理事 呉軍華氏
「経済はもちろん重要ですが、今回の大会で大きなトレンドは、習近平さんが活動報告で“安全”を非常に強調しました。何十回も安全っていう言葉を使いました。今まで経済成長でやってたんですけれど今回の大会を境に経済から安全。共産党にとっては政権安全、国民にとっては安定。そっちに変わるのではないかと思った。(中略~安全より生活だっていう人もいるが)今までのような高度成長はなくなったけれど、社会が大混乱になったらもっと悲惨なことになるでしょう。」
この安全安定を政策の中心に持ってくることは、経済が巧くいかないことのカモフラージュだというのは東大大学院の高原教授だ。
東京大学大学院 高原明生教授
「失業率を下げるとか、賃金の遅配撤廃とか、そういった具体的な果実を国民は求めている。が、習さんの側はなかなか提供できないので、安全が大事、安定が大事だって。社会が安定していれば経済も発展するでしょ、だから今は安定を大事にしましょうっていうレトリック。その時習さんの安定を実現する方法っていうのは“同質化”なんですね。異質は許さない。異論は言わないでね。みんな同じ声で、足並みをそろえていけば安定するでしょ、という・・・。新疆ウイグルのやり方であるとか、香港のやり方であるとか、みんなそうでしょ。異質なものは許さない。力で押さえつけて本当の安定が貫徹できるとは思いませんけどね」
力による安定は、クリエイティビティを損ね、発展とは逆の方向に進む。中国を急成長させてきた原動力である起業家たちは改革開放の流れの中で生まれてきた。果たして安定を管理しながら経済を発展させることは可能なのだろうか。
■「習近平さんの立場では台湾を武力統一することは合理的なんです」
今後の中国の動きで、やはり気になるのは台湾問題だ。習近平氏は活動報告で、台湾に対して「武力行使の放棄は約束しない」とした。習近平政権のうちに台湾有事はあるのだろうか…。
国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏
「一人っ子政策で兵力が不足している人民解放軍は、簡単には台湾武力統一に打って出られない。あるとすれば、自分が4期目5期目を続けるため、あるいは政権が揺らいでそれを守るためか・・・。ただ、習近平氏がそういう賭けに出たとしても中国という国はいくら1強とはいえそういうことに走らせない国だと私は思っているので、簡単に武力統一には出ないと思う」
日本総研 上席理事 呉軍華氏
「3期中か、4期目かは知りませんが、どこかの時点で武力統一はあると思います。習近平さんという方は使命感が強い。この祖国統一は自分の使命だと強く信じていると思う。もう一つ、例えば、プーチンがウクライナに侵攻すると“なんであんなことするんだ”といって合理的じゃないっていう。他から見ると確かに合理的じゃないかもしれない。でも、プーチンの立場では合理的なんですよ。習近平さんの立場では台湾を武力統一することは合理的なんですよ。例えば中国の若い人たちは収入が減ることは不満を持つかもしれないけれども、台湾統一のためなら賛成だという人も多いと思う。共産党の立場でも祖国統一は、使命であり、合理性があるんですよ。だから台湾統一は武力をもってしても合理性はあると思う。立場が違えば合理性は違うんです」
東京大学大学院 高原明生教授
「習さんのトッププライオリティは今の体制を維持することだと思います。だとすると台湾を攻めることがそのためにプラスかマイナスか計算します。そうすると今の段階ではやらない方がいいという判断になると思います」
(BS-TBS 『報道1930』 10月24日放送より)
 
 
   
  













