区間エントリーから各チームの戦略がはっきりした。11月のクイーンズ駅伝予選会となるプリンセス駅伝は23日、福岡県宗像市を発着点とする6区間42.195kmで行われ、上位24チームが本大会に出場する。今年の特徴は、後半の5 区にエースを起用するチームが増えたこと。1位通過候補チームの中では3区に世界陸上オレゴン5000m代表だった萩谷楓(22)を起用したエディオンやユニクロ、三井住友海上が前半型のオーダーを組んできた。それに対し大型ルーキーの鈴木優花(23)を5区に残した第一生命グループや九電工は、後半型の布陣で挑む。
前半型のチームが逃げ切るのか、後半型のチームが逆転するのか。注目のプリンセス駅伝は23日午後12時10分にスタートする。

エディオンは3区で、三井住友海上は4区でトップに立つ布陣

3区に萩谷を配置したエディオンは、前半全体で攻めるオーダーというよりも、“萩谷で
取り戻せる”布陣だろう。マラソンの疲労を考慮してダブルエース的な存在の細田あい(26)はエントリーから外した。昨年の1区区間3位の西田美咲(31)を同じ1区に配置していたら、攻撃的な前半型オーダーと言えた。
だが西田を5区に起用し、1区には江口美咲(27)を起用してきた。西田はマラソンがメイン種目。スタミナが持ち味で単独走にも強い。そして2年前の今大会で1区区間11位だった江口が、「そのときと同じくらい」(沢栁厚志監督)まで復調してきたからだ。
仮に1区で完全に上位の流れに乗れず、2区終了時点で30秒くらいのビハインドがあっても、3区の萩谷で一気にトップに出ることができる。そのくらい萩谷の実績は突出している。
そして萩谷で奪ったリードを西田や、故障明けで主要区間(プリンセス駅伝では1、3、5区)は外れたが、5月の日本選手権10000m6位だった矢田みくに(22)で逃げ切る。そんなレース展開が期待できそうだ。

ユニクロは1区に平井見季(26)、3区に吉川侑美(31)と2枚看板を前半に投入してきた。平井は7月に5000mで15分24秒82の自己新、今季日本リスト12位の好タイムを出した。安定性はまだないが、ハマったときの爆発力は大きい。そして安定した力を発揮するのが3区の吉川だ。吉川1人では萩谷に勝つのは難しいが、平井と2人セットで萩谷を上回る可能性はある。
しかしユニクロは、1区と6区を平井と分担するはずだった荘司麻衣(28)がメンバーから外れた。優勝するには1区&3区で大きなリードが必要だろう。

三井住友海上も1区に松田杏奈(28)、3区に西山未奈美(22)と、前半型の布陣になった。西山は3000m障害の日本トップ選手で、今季は1500mと5000mでも好記録を出しているが、10000mの距離での実績はほとんどない。
スピードのある西山が10kmの距離にも適性があり、化けることへの期待を優先した。そ
れは4区にカマウ・タビタ・ジェリ(22)という絶対的な選手がいるからできることだろ
う。西山が10kmへの適性を見せれば、三井住友海上は4区のタビタでトップに立てる。

第一生命グループと九電工は5区のエースでトップに立つ布陣

第一生命グループは1区に出水田眞紀(26)、3区に小海遥(19)を起用。前回と区間
を入れ替えたのは、出水田が今季は中距離的な練習が多かったこと、小海がスタミナ面の
練習が多かったことを考えてのことだという。だが小海の10000mと10kmの距離での実績は、4月に10000mを32分55秒65で走ったくらい。萩谷とは1分20秒違う。
しかし第一生命グループの強みは2区に、前回も2区で区間2位と好走した櫻川響晶(20)がいること。平井のいるユニクロに先行できるかどうかはわからないが、1、2区でエディオンはリードできる。
そして5区に、期待のルーキーの鈴木を起用した。単独走や向かい風、上り下りへの強さを期待してのことだ。「1分以内にいる選手は全部抜いて行く、くらいの気持ちで臨みます」と鈴木自身も強気な姿勢を見せる。

後半型の優勝候補チームに九電工も挙げておきたい。5区にエースの逸木和香菜(28)を残す区間エントリーをしてきた。全日本実業団陸上10000m4位(日本人2位)で、萩谷との差は14秒と健闘した。藤野圭太監督は区間配置の理由を次のように説明する。
「1区の唐沢(ゆり・26)を後半区間でしか起用してこなかったのですが、前半に起用し
てどのくらい走るかを見るのも目的です。当たれば面白いと思います。林田(美咲・22)
は3年前も3区を走りましたが(区間10位)、前半をガッと入れる選手です。後半を失速
しないような練習ができてきました」
仮に3区までで多少後れても、4区のジェロティッチ・ウイニー(22)が20秒くらいは挽回できる。そして5区の逸木で勝負をする。藤野監督は「(優勝の)可能性はある」と手応えも感じている。

17、18年女王チームのパナソニックは新戦力が台頭

クイーンズ駅伝優勝チームが多数出場するのも、今年の特徴と言っていい。京セラ、三井住友海上、第一生命グループ、豊田自動織機、天満屋、パナソニックの6チームだ。
全国制覇をしても上位に定着できるわけではない。実業団女子駅伝は栄枯盛衰が激しい世
界である。
しかし三井住友海上や第一生命グループ、豊田自動織機は、今大会でも1位通過候補に挙げられるくらいに戦力を整えている。そして昨年のクイーンズ駅伝で25位に沈んだパナソニックは、新戦力が台頭してきた。

17、18年の2連勝でエースだったのは18年アジア大会10000m代表の堀優花(26)で、17年3区、18年5区、(チームは3位だった)19年3区と3年連続区間賞。森田香織(27)も1区で2年連続区間賞、渡邊菜々美(23)も2区と3区で連続区間賞と大活躍した。
しかし3人とも20年以降は故障などで、以前の走りができなくなった。昨年は6人のメンバーをそろえるのも難しい状況で、20年頃から右の大腿部付け根を肉離れしていた堀を「出るべき練習ができていない状況」(安養寺俊隆監督)でも4区に起用せざるを得なかった。区間28位(最下位)という結果を攻めることはできない。
堀は今回のプリンセス駅伝も欠場するが、渡邊を2区に、2月の東京マラソンでは2時間
27分38秒の日本人3位と、まずまずの走りを見せた森田も5区で、スピードを生かしていた以前とは、違う走りにチャレンジする。

パナソニックの新戦力の1人は信櫻空(21)で、2連勝の2年後に入社した選手。今季は1500mで4分15秒37、5000mは15分36秒01と自己記録を更新。特に1500mは今季日本リスト10位とレベルが高い。「もう一度1500mから頑張りたい、日本選手権に出場したい、と本人が冬場に基礎作りをしっかりやって、春からスピードを入れた結果です。駅伝でも地力が上がったことを見せてほしい」(安養寺監督)
中村優希(22)は3位になった18年大会時のアンカー。ダイハツには抜かれたが、優勝したJP日本郵政グループとの差を11秒まで縮める好走だった。2年前に5000mで15分33秒54を出し、今年も15分41秒42と好調だ。
そして2連勝時のキャプテンだった内藤早紀子(28)も、当時は主力3人と力の差が少しあったが、昨年5000mで15分32秒76、今年1500mで4分21秒49と自己記録を伸ばした
。「昨年から通信大学に行くようになり、文武両道を実践する姿勢が競技につながったの
だと思います」と安養寺監督。
「内藤が10年目でも進化を続け、信櫻も一番成長したと言える成績を残しています。駅伝
ではその2人が流れを作ったり、勝負を決めたりしてほしい。そして菜々美には自信を取
り戻させたい」。内藤が1区、渡邊が入社1年目に区間賞を取った2区、信櫻が6区という布陣。パナソニックは優勝メンバーと新戦力が融合する雰囲気になってきた。かつて全国一に輝いたチームの復調していくプロセスに注目できるのも、駅伝の楽しみ方の1つである。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)