佐久市で10年前、男子中学生が車にはねられ死亡した事故で、「ひき逃げ」が認定されました。
最高裁判所は7日、被告の男を無罪とした2審判決を破棄し、控訴も棄却。
懲役6か月の実刑判決が確定することになります。


最高裁判所で7日に開かれた判決公判。

「主文、原判決を破棄する。原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる」

母の和田真理さんは、傍聴席で息子の遺影を抱き、肩を震わせながら判決理由を聞きました。

母 真理さん:
「判決を聞いた瞬間涙が溢れました」
「この判決を聞くまで長くかかってしまったんですけど、直ちに救護され、救われる命が少しでもあればそういったことにつながればと思っています」
「きょうの判決を機にようやく被害から回復に向けた一歩が踏み出せるような気持ちです」

父 善光さん:
「卑劣な行為に対して極めて妥当な司法判断が下されたと受け止めている。直ちに被害者を救護しければいけないということが明確に示された判決だったと思っています」

佐久市で2015年3月、中学3年だった和田樹生(わだみきお)さんが自宅前で車にはねられ死亡しました。

運転していた52歳の被告の男は過失運転致死などの罪で有罪判決を受けましたが、両親の訴えなどもあり道路交通法の救護義務違反の罪で起訴されました。

樹生さんの救護よりも前に、飲酒を隠すためにコンビニへ行き、口臭防止剤を買っていた行為が「ひき逃げ」にあたると主張しました。

この裁判で1審の長野地裁は懲役6か月の実刑判決。

ところが2審の東京高裁は逆転の無罪判決を言い渡しました。

東京高裁は、被告が現場を離れた時間は1分余りで、距離も50メートル程度に留まっていると指摘。

その後、現場に戻っていることから、救護義務を果たす意思を持ち続けていたと認定しました。

検察側は最高裁判所に上告。

2024年12月に開かれた弁論で検察側は、「無罪判決は被告の身勝手な行動によって救護が遅れたことを過小評価した不合理なもの」などと破棄を求めました。

一方、弁護側は「救護義務と相容れない行動があったとしても、離れた時間や距離の程度、その後の行動が全体的に考察されている」などと無罪を主張しました。

7日の判決公判で岡村和美(おかむらかずみ)裁判長は2審の無罪判決を破棄。

「被害者に重いけがをさせた可能性が高い事故を起こし発見できなかったのに、無関係なコンビニエンスストアに行き必要な措置を講じなかった。無罪判決は法令適用の誤りで裁判官全員一致で主文の通り判決する」

被告の控訴も棄却し、1審の懲役6か月の実刑判決が確定することになりました。

父 善光さん:
「ひき逃げに対する一つの判断基準が明確に示されたのではないかと考えています」

この事故は、ひき逃げや、スピード超過、飲酒など数々の疑いがありながら当初、「わき見運転」として処理されました。

司法に見放されたと感じた両親は、自らの力で必死に証拠を集めこの日を迎えました。

この間10年、家族が負った苦痛は計り知れないものがあります。

捜査や裁判に関わった機関の対応が適切だったのか、被害者家族のサポートができていたといえるのか、社会全体で振り返る必要があります。