始まった自傷行為
夏休み明け、A君は通常学級に在籍したまま、週1回ペースで通級指導教室に通うようになった。しかしA君は次第に心身のバランスを崩していく。
ペースを乱されるのが苦手なA君は、片付けの時間に女子児童から世話を焼かれるたび、パニックを起こすようになった。
授業中には「ワーッ!」と大声で1時間ほど叫び続ける。ストレスで、左手の人差し指・中指・薬指の爪を剥がすようになる。

歯ぎしりを繰り返したA君の歯、犬歯が平らになっている
毎夜うなされ、歯ぎしりを繰り返し、犬歯はまっ平に。歯茎には白い水泡のようなものができ、前歯の神経を抜いた。
崩れていく心身のバランス
学年が変わると状況はさらに深刻化していった。
他の子どもたちの騒ぎ声に耐えられずパニックになると、教科書を床に投げたり、机をひっくり返したり、叫び続けたりする状態が続くようになった。静かな場所を求めて、廊下で本を読んだり、教師が使用する教卓の中に隠れて過ごすようになった。

A君がマジックで落書きしたドリル
ランドセルの中からは、ビリビリにページを破った音楽の教科書やマジックで塗りつぶされた漢字ドリルが見つかった。
そしてA君は母親に告げた。「もう無理です。教室が怖い。1年頑張ったから、もういいよね?」教室に入ることができなくなり不登校になった。
不登校、そして新しい一歩へ
不登校になったA君。自宅で過ごす中で、減っていた体重も5キロ戻り、笑顔をみせることも増えてきたという。今は、自宅や屋外施設でクロムブックなどを使って母親と勉強をしたり、ポケモンのゲームをしたりして過ごしている。
A君と両親は「特別支援学級」への転籍を市に申請、「教育支援委員会」での審議をへて、来年度から特別支援学級への転籍が決まった。
多くの同級生と同じように、できるなら「通常学級」に通ってほしい―、親としては誰しもそう願うと思う。でも今A君の両親は入学前の選択を後悔しているという。

A君の母親:
「年度途中であっても、通常学級から特別支援学級への変更に対し、柔軟に応じてもらえたら、もしかしたら二次・三次障害を防げたかもしれない…」
※二次障がい(自信低下・反抗)、三次障がい(不登校・引きこもり・反社会的な考えや行動)
A君の母親:
「入学前に子どもの話をたくさん聞いて欲しい。発達障がいの特性や状態を一番理解しているのは親です。その子にとっての‟普通”を先生に伝え、親が子の気持ちを代弁してあげてほしいのです。入学後も、子どもが発するSOSのサインを見逃さないよう、学校での様子を親子で話す時間を作ってください」

特別支援学級では、少人数での授業や個別の支援計画を通じて、A君が自分のペースで学ぶ環境が整えられる。音への敏感さを軽減するためのヘッドホンの活用や、対人関係の築き方やコミュニケーション取り方などを学ぶ機会も設けられる予定だ。
A君の両親は、彼が「できた!」という喜びを積み重ねていく姿を見るのを心から楽しみにしている。














