規律と伝統を重んじる、メジャー屈指の名門ヤンキース

イチロー:どこの球場が一番好きだったか。シアトル以外で、遠征先の球場でどこが一番好きだったかって聞かれると、必ず「古いヤンキースタジアム」(※1923年~2008年)って答えるんですよ。

松井:ダントツです、自分の中でも。

ヤンキースタジアムについて語るイチローと松井

イチロー:そうだよね。あれはもう痺れるよね~。僕がライトにいるとボロカス言われるわけだけど。

松井:ハハハハハ(笑)

イチロー:他のイースト(東地区)のチームは、あんまりガラ良くないじゃない。ボルチモアとか。それとまた全然違うんだよね、ヤンキースのファンって。一歩球場を出ると、例えばレストランで会ったら「サインください」って。あ、何か、野球好きなんだなっていう。

松井:そうなんですよ、そうなんですよ。

イチロー:あれを楽しんでるっていうのがすごい伝わってきて、僕は大好きだったんだよね。昔のさ、古いヤンキースタジアムの時(※2009年から現在のスタジアムに移行)ってさ、クラブハウスの雰囲気どうだった?音楽流れてた?

松井:流れてないっす。

イチロー:そうだよね。僕ヤンキースに行って(※2012年7月にマリナーズからトレードで移籍)、それが一番衝撃で。僕は新しい方だけど、何も音がしない。ちょっと緊張感あるじゃない。常に。

松井:(笑)

イチロー:ある時間から、メディアの人が入ってきたりするんだけど、もうそれぞれが、やることやってるっていう雰囲気じゃない。いや、あのクラブハウスは僕一番気持ち良かったんだよ、今までで。大好きだった。だからあのニューヨークの、ジーター(※2014年に引退)のいるヤンキースをギリギリ体験できたことは、すごい財産になったんだよね。今、もう違うでしょ?

松井:違います。

イチロー:聞いたら、もう音楽ガンガンかかってて。

松井:でも、やっぱクラブハウスの雰囲気が変わったと。「お前がいたときとは違う」って言ってました。

イチロー:そういうのってさ、ヤンキースは持ってて欲しいじゃない。伝統として。ヤンキースのクラブハウスはこうだ!髭がどうとか、そんな身だしなみじゃなくて。クラブハウスの雰囲気。ロッカーの雰囲気がさあ、やっぱ特別なんだよね、あれ。他のチームではありえないこと。だけどジーターがいなくなっちゃったら、もうやめちゃうっていうのはあまりにも勿体ないなと思ってね。

松井:そうですね。その文化をなぜ壊したかなと思いますよね。

イチロー:あのチーム(ヤンキース)に行って確かに、あ、これは自分勝手にできないチームだなと思った。自分の役割を、小さくてもいいから重ねていく。重ねていかないと、ここでは生きていけないというのもすぐわかったし、だから今の話とやっぱり繋がるんだよね。

松井:(頷く)

イチロー:チームが勝つことで、すごい喜びを感じたのよ。久しぶりだったなって。あの経験なかったら、その感触を得ずに終わってた可能性あるんで。マイアミに行ったときは、また全然違うチームだから。だからシアトル・マリナーズ(2001~2012)でニューヨーク・ヤンキース(2012~2014)、マイアミ・マーリンズ(2015~2017)で最後シアトル(2018~2019)に戻るわけだけど。この流れは、そういう意味ではすごく良かった。大変だったけど、ニューヨークに突然行って。

松井:そうですね。

イチロー:で、マイアミ。全然全く知らない場所で、それなりに大変だったけど、終わってみると、いい体験だったなって。

松井:いい体験だと思う。体験というか、いい旅ですよね。

イチロー:ヤンキース(2003~2009)にいた松井秀喜が、アナハイム(ロサンゼルス・エンゼルス、2010)。で、オークランド(アスレチックス、2011)、レイズ(2012)。

松井:最後はレイズ、タンパベイですね。

イチロー:それって結構、ギャップがあるじゃない。

松井:ありますね。

イチロー:反対のパターンだから。何を感じた?

松井:やっぱり自分が、それまで(読売)ジャイアンツ、ヤンキースで、ずっと来ましたよね。やっぱり全く違う雰囲気。それこそクラブハウス。

イチロー:ちょっとズコッてならない?

松井:ハハハハハ、そうですね(笑)なります。チームを批判してるわけじゃなくて。もうチームの雰囲気というか、文化というか。

イチロー:そうだよね、そうだよね(笑)

松井:言い方悪くすれば“ゆるい”っていうかね。逆にこれ「こんなのでいいのかな」みたいな感じがあるんですけど、でも自分が何かそれをね、「こうじゃないだろう」って言う立場でもないしね、言えることでもないですから。自分は逆にこれに慣れなくちゃいけないんだっていう気持ちでやってました。

イチロー:そっちの方が多分大変だよね。

松井:そうなんですよ。ゆるい方に慣れさせる自分っていうのをね。結構違和感ありましたよね。当たり前だったことが、それはもう必要ないんだっていう、ちょっとズッコケ感みたいなのはありますよね。

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