「一番良かったのは目の前に長嶋茂雄がいたこと」

松井:それが当たり前だと、どっかで思えたんでしょうね、多分ね、これが普通なんだって。で、やっぱり一番良かったのは、目の前にやっぱり長嶋茂雄がいたことで。

イチロー:うんうんうん。

ドラフト1位の宿命について語り合うイチローと松井

松井:長嶋さんが、一番それをやってきた人でしょ。多分、長嶋さん、王(貞治)さんが一番それをやってきた人なんで。その長嶋さんが常に目の前にいて。それをやってる姿をいつも見てて、なおかつ長嶋さんは自分に特別な愛情を注いでくれたんでね。

イチロー:うんうん。

松井:その環境が、良かったのかなっていう気はします。また違う環境だったらちょっと違ったかもしれないです。

今振り返る、甲子園での“伝説の5敬遠”

イチロー:高校時代から背負ってきた、宿命みたいなものっていうのは影響してないの?だって、当時からもうねえ。

松井:そうですね、だからそういう意味では、あの“5敬遠”っていうのは、伝説という意味では私にとってプラスかもしれないけど。背負ったものとしては、ちょっと余計なものかなっていう気はしましたけどね。

イチロー:そう?ああいうストーリー欲しいなって思うけど、俺、何にもないからね。もうただの1回戦負け2回戦負け(笑)いいよね、甲子園のストーリーがある人。
※1992年夏の甲子園2回戦。松井擁する星稜高校は高知の明徳義塾と対戦。松井は5打席全て敬遠されチームも敗れた。

甲子園での5敬遠を語る松井

イチロー:だって5敬遠でさあ、試合が止まる、ものが投げ込まれて、試合が止まるなんてことはあるの?他にあの試合以外で甲子園、高校野球だからね。

松井:おそらくないでしょうね。だからあれは、結果的には良かったと思うんですよね。

イチロー:あのときはどう?

松井:あのときは、思ってないです。

イチロー:もう最後までそうだろうなって、途中から思うの?

松井:もちろんそうですね。途中から気づきました。

イチロー:それはもう感情的には、もう静かにしてようっていうスイッチになったの?

松井:ですね、あそこでやっぱ感情出せないですよね、特に高校野球ですしね。

イチロー:でも、星稜の応援席はもうブーイングで、すごかったじゃん。

松井:キレてましたね、だいぶね。

イチロー:そうでしょ。高校野球でブーイングって出ないからね。

松井:出ないですよね。明徳(義塾)の校歌は一切聞こえなかったです。本当に一切聞こえなかった。校歌が終わったかどうかもわかんなかったです。まあでも、あれがある意味で、どっかでエネルギーに変えられた時期があったんじゃないかなっていう、やっぱり自分の中で打って伝説だ、例えば松坂みたいな、ああいう伝説でもないし、キヨさん(清原和博)みたいな伝説でもないし。自分はまったく何もやってない中での、勝手にできあがった伝説っていうかね。

イチロー:まあ、そっちの方がすごいと言えばすごいけどね、何にもやってないのにクイズ王になる人。

松井:(爆笑)

イチロー:相手が答えていくだけで、ブーブーブーで、何も答えずにチャンピオンになった人、みたいな。その方がなんかすごいじゃん。全部知っててチャンピオンになる人はいっぱいいるけど、何もしないでチャンピオンになった、そりゃすごいでしょ。そっちの方がすごいと思う、レアだよね。

松井:考え方によっては、そうですね。だからあれをやっぱり、あいつ5回甲子園で敬遠されたんだよっていうね。じゃあ、実力はどうなんだっていうね。誰もがそこにね、疑問を感じるわけであって、そこを払拭させたいっていうかね。その伝説をもっとちゃんとした伝説にしとくままにしなくちゃいけないというね。

イチロー:うんうん。

松井:それが、やっぱりエネルギーになったという意味では、良かったなと思いますけどね。

イチロー:なるほどね。

松井:でも当時の感情は全然違いましたけど、もちろん。