松井秀喜「真剣に野球と向き合う、おそらく最後の試合」
イチロー:声、枯れてます。声、出しすぎて、朝起きたら、声枯れてると思って。打席のとき、最後「行け!行け!」って言ってたからね。それ、全然聞こえないだろうけど。
松井:嬉しいっすね。「今日これは自分の選手として、真剣に野球と向き合う、おそらく最後の試合だな」というつもりで行って、しょっぱなあれですよ、しょっぱな肉離れで。この時点でもう来たかと思って(※「4番・センター」で出場した松井は1回の守備で肉離れを起こす)。
イチロー:あー。
松井:でも最後にね、まさかあんなこと(※最終6打席目に東京ドームで20年ぶりのホームランを放つ)が待ってるっていうのをね。

イチロー:あの場面も最高だったし、涙した人いっぱいいるし。だけど、あれが邪魔したっていうことも言えるよね。
松井:ヘヘへ。邪魔・・・(笑)
イチロー:つまりその、最初に足やっちゃって。こんなんじゃ駄目だ。もう1回作り直して、次。
松井:あー、なるほどね。
イチロー:だけど最後、ホームランで終わってるから、これで終わりの方がいいという考え方も。
松井:形として終わりとして、一番美しい終わりじゃないすか。
イチロー:僕はやっぱアスリートとしては、こっち(右足)をちゃんと治して、セントラルパークで走り込んで。
松井:あはははは(笑)
イチロー:もう一度センターとして、しっかり守れる状態。で、またホームランね、いい結果が出たらいいし。それができたら、またもっとやりたくなるかもしれないし。どう?
松井:考えます。
イチロー:いやいやいや、NOじゃないからさあ。
松井:やっぱりそれはイチローさんに言われちゃうとね。やっぱり自分だけで完結できない話になってきたんで、これはね。
イチロー:だってファンの人の反応とか、やっぱ見たらさ。
松井:あの歓声聞いちゃうとね。自分が打って、あの歓声が来るっていう快感はやっぱりね。
イチロー:最後のホームランだけじゃなくてね、最後まで出るっていう、何としても出るっていう意思を見せてくれたことが、僕もそうだし、みんなそれを喜んでるもんね。
松井:でもあそこでやっぱり途中で抜けるっていう、その選択肢は自分ではなくて、足引きずってでも、とにかく最後までやんなくちゃいけない。
イチロー:うんうん。
松井:東京ドームでね、イチローさんに呼ばれて、このたくさんのお客さんの前でね、これはもう代わることはできない。もちろんわがまま言って、ちょっとサードに行かせてもらったり、臨時代走という特別なルールを作ってもらいましたけど、やっぱりこれはもう、足を引きずってでも、情けない姿をお見せしてでも、皆さんの前に居続けなくちゃいけないっていう、もう怪我したときからそれは思ってました。どうやって9回持たせるかっていうね。
イチロー:そうするとさ、ホームラン打ったときにさ、代走っていうのはおかしいんじゃないの。それは相反する行為なんじゃないの。
松井:いやでも、打ったところでお客さんが喜んでくれてたんで。
イチロー:いや、(ダイヤモンドを)周るのを見たい。僕が思ったのは、もう歩いてでもいいから周ってほしい。
松井:それでも権利はありますよね、打ったらね。行けっていう姿を見たら、行かなきゃいけないなと思いました。
イチロー:あれはすごくいいシーンだったんですよ。