当時の松井に「明るいっていうイメージは持てなかった」

決起集会で、10年ぶりの再会を果たしたイチローと松井。高校野球女子選抜との試合を終え、二人は改めて語り合った。

都内のホテルで対談するイチローと松井

松井:イチローさんの前でやっぱりね、せめてジャケットとシャツ着ないとね。

イチロー:普段こういう感じが多いってこと?

松井:こういうときは大体そうですね。

イチロー:(決起集会の時に)デニムは履かないって言ってたじゃん?

松井:ほとんど履かないですかね。たまには履きますけど、はい。

イチロー:俺頑張ってこれ(セットアップに白のTシャツ)だから。

松井:いやいやいや、なんでも似合っちゃうから(笑)

イチロー:プライベートで会うことは・・・。

松井:そうですね、初めてですよね。

イチロー:ねぇ、なかったから、どんな感じなんかなと思って、緊張もしたし。いや、緊張するじゃない、そりゃ。球場でしか会ったことない、お互いがさ。そうしたら想像以上だったから、すごい驚いたんだよね、明るいよね。すごく明るいっていうイメージは、僕の中には持てなかったから。実はそこに一番びっくりしたのと、格が高いっていうか、格のある人って言われるでしょ?

松井:そうですかね。

イチロー:いや、そうだなと思ったの。大体の人たちはさ、箔をつけることに必死になっちゃって、格が備わらないっていう人はいっぱいいると思うのね。

松井:なるほどね、格と箔の違いですね。

イチロー:全然違うことじゃない?箔はつくけど、格がない人っていっぱいいるんだけど、あ、この人両方備わってるなって。それって瞬間的に感じるものだし、どこで備えたんだろうって。

松井:これは、やっぱりイチローさんと対比した場合の話ですけど、やっぱり自分はなんかそれを求められてきたとこに、どうしてもいたっていうかね。

イチロー:(読売)ジャイアンツ、ヤンキースとかね。

松井:格なのかどうなのかよく分からないですけど、それを基本とするなんていうか、人間性というか人格というか、そういうものを、何か自然に求められてきたなっていうか。

イチロー:求められてもさ、それを形にできるかは。

松井:もちろんそうです。できる人、できない人いると思うんですけど。やっぱりそれはなんか自分の中で、ひしひしとなんか無意識のうちに感じて、そうしなくちゃいけないっていうか、そのうちそれが本当の自分なのかどうなのかっていう、それすらなんか自分自身がわからなくなってきて。

イチロー:あーー。

松井:じゃあ自分自身は何だってなったら、昨日、一昨日の明るく一緒にお酒を飲む。それも自分自身だし、かといって、やっぱりたくさんのファンの前で、こういなくちゃいけないと思う松井秀喜も、自分自身だし。

イチロー:うんうんうん。

松井:どっちも本当の自分なんでしょうけど、それをなんか、無意識に使い分けちゃうっていうか。それがイチローさんにどういうふうに映ったかは、ちょっとわかんないんですけど、でもイチローさんになんかそういうふうに自然とね、感じていただけたのは、もちろん自分自身としては嬉しいんですけど。私はまず、お店に入った第一声が、今まで見たことのないイチローさんの「へい!ヒデキ・マツイ!」

イチロー:(爆笑)

松井:で、入ったでしょ。あれでなんか自分のなんか、もうポンって弾けちゃって。「あれ、イチローさん、あ、じゃあこのノリで自分もいっていいんだ。自分もこれでいけるよ」みたいなね。それがすごいウェルカムというね。それがすごく良かったですね。やっぱりイチローさんと一緒におられる皆さんがやっぱすごい素敵、やっぱ皆さん素敵だったんで、本当に何かすっとあの場に行けた。

イチロー:いやすごい自然だったもんね。なんかあっという間に溶け込んでいた。

松井:ホントに10年ぶりっていう感じもなかったです。

イチローの声かけで実現した松井初参戦

イチロー:この女子野球、東京ドームで3年目を迎えるにあたって、何が一番盛り上がるだろうか、世の中の人が想像しない形は何なんだろうって考えたときに、松井秀喜だったら、もう完璧だよなって。僕は、51歳になる。松井秀喜は50歳になる。

松井秀喜:(頷いて)はい。

高校野球女子選抜との試合前のイチローと松井

イチロー:いつまで、これできるかわからない。体の状態とかね、それはわからないし。このまま会わずにさ、お互い死んでいくのもさ、なんかね。変な感じ。かといって、突然誘って酒飲む、飯食うとかもなんか違うし。

松井:アメリカにいると遠いですもんね、さすがに。

イチロー:東京ドームだし。それは画としてやっぱ美しいし、驚いてもらえるし、再会もできるし、その後、酒も飲めるかもしれないし。いやこれは何か、悪いことがないなって思って、声をかけたというのが経緯だね。

松井:(笑)自分の中ではイチローさんが51歳。これはもう記念ね、しなくちゃいけない年だと。自分の中で勝手にですよ、「51=イチロー」ね。

イチロー:うんうん。

松井:そのイチローさんが、51歳。そこに呼ばれてて、行かないっていう選択肢はやっぱりちょっと考えづらかった自分の中で。ここはやっぱり祝福しなくちゃいけない。で、最後に会ったのが、ヤンキースのキャンプのときだったでしょ。

イチロー:そうね。

松井:ちょうどあれが2014年だったと思うんですけど、あ、ちょうど10年ぶりだと思って。「あ、ここはもう絶対行くべきだなと、行かなくちゃいけない。行って直接、久しぶりに会って、野球して、ついでにお酒も飲んでという、もう素晴らしいこの機会をね、自分の中でやっぱ逃しちゃいけない」っていう気持ちでしたね。

イチロー:だってさ、断る理由なんかいくらでも作れるわけだからね。簡単だもんね。それは全然考えなかった?めんどくせえなとか。

松井:面倒くさいのはないです。面倒くさいんじゃなくて・・・。

イチロー:「おまえどこ住んでんだと思ってんだよ」ってなかった?(笑)「どこに住んでると思ってんだよ」って(笑)

松井:そりゃ、イチロー・スズキに・・・。

イチロー:「お前、バカか」って思わなかった?(笑)

松井:イチローさんに野球誘われて断れる人間、世界中いないっすよ普通。

イチロー:いや声もかけないけど、誰でもいいわけじゃないからね。

松井:でも、ただ唯一心配だったのは、やっぱ野球やってない、ほとんど。野球教室でねちょっとね、こういう軽い球を打つぐらいなんで。

イチロー:うんうん。

松井:実際本当に野球でプレーできるかっていう心配、そこだけはありましたけど。ただ行くことに関しての障がいは別になかったです。