処刑・拷問 アサド政権なぜ弾圧?

小川彩佳キャスター:
かくも人は残忍になれるのか、という見ていて息が詰まるような実態の数々でした。

藤森祥平キャスター:
この時代に、ナチスの強制収容所のような現実が広がっているわけですね。

トラウデン直美さん:
言葉がないんですけれども、なぜここまで増長してしまったのかがやはり一番大きな点だと思いますし、止められないものなのか、なぜ繰り返してしまうのかと感じます。

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤 伸輔さん:
国連のグテーレス事務総長が、シリアの状況を「この世の地獄だ」と表現したことがありましたが、今の映像見てるとまさしく地獄だと思わざるを得ない。しかもそれは、自然にできたものではなくて、アサド政権を中心とした人間が作った地獄というところに改めて非常にショックを覚えます。

小川彩佳キャスター:
なぜアサド政権は、ここまでの残虐性を出してしまったのでしょうか?

23ジャーナリスト 須賀川 拓さん:
やはり多くの方が疑問に残ると思います。「なぜ周りが止められないのか?」これには、いろいろな背景が複雑に絡み合ってると思いますが、あくまでも可能性論として、いくつか挙げられるものがあると思います。

まず、このアサド政権は、自分の敵を全て弾圧してきたわけですが、彼はイスラム教の少数派の「アラウィー派」だったことが関係しています。自らが少数派で権力を持っているということは、「自分が弾圧される側に回るかもしれない」という強迫観念っていうのは常にあったのではないかと私は思ってます。

あと、このバッシャール・アサド大統領は、元々ロンドンで眼科医をされていました。政治とは全く無縁な生活を送っていましたが家族の事情で、本国に戻されました。しかし、父親も残忍な独裁者であったので、自分が最初に触れて、全てを学ぶ人が独裁者しかも極めて残忍な人だったというのが大きなポイントではないかと思っています。

トラウデン直美さん:
それを聞いてさらに、元々ロンドンで生活していて外の世界を知っていたわけなのに、どうしてあそこまで残虐に慣れてしまい、このようなことになってしまったのでしょうか。

23ジャーナリスト 須賀川 拓さん:
これには、根源的な部分があると思います。

例えば、今回の制度やセイドナヤ刑務所のような場所で最初から何百人も処刑を始めたら、政権内でも「おかしいんじゃないか」と思った人はいるかもしれません。しかし、徐々にその残忍・残虐度合いが上がっていくと、やはり人間は麻痺してしまう。

これまでの歴史を見ていくと、ナチス・ドイツも一番最初に強制収容所ができていたら、もしかしたら誰かが止めたかもしれない。しかし、麻痺してしまっていました。本当に独裁者が生まれる過程を、私達は今まさに目撃したんだなと思います。

小川彩佳キャスター:
異常性の中に入っていくと、少しづつその異常性が認識できなくなってしまうのですね。

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤 伸輔さん:
アサド政権の残忍性・残虐性というのは、刑務所の中だけであったわけではないです。

例えば、国民に対して何十回何百回と化学兵器を使っています。サリンとか塩素ガスのようなものでも多くの市民がなくなっています。さらに、反体制派あるいは武装勢力との戦闘のときには『樽爆弾』というのを使っていました。ドラム缶に爆薬と金属片・釘や破片のようなものをたくさん詰めて、それをヘリから落とす。

このように、刑務所の外でも自国民に対して非常に残虐なことをやってきて、それが長年にわたって続いてきたことが、今回の反体制派いわば士気を高めたような部分があります。

私も本当に驚きましたが、10日ほどの短い間に政権が崩壊するに至ったのも、そういった流れの残虐行為に対する、市民や反体制派の反発心・士気が影響したんだろうなと思います。

小川彩佳キャスター:
まだその残虐性の一端というのが見えたという段階に過ぎないわけですね。

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〈プロフィール〉
トラウデン直美さん
環境問題やSDGsについて積極的に発信 
趣味は乗馬・園芸・旅行

堤 伸輔さん
国際情報誌『フォーサイト』元編集長
政治から社会問題まで幅広い報道に関わる