アサド政権崩壊のワケ 今後のパワーバランスは

23ジャーナリスト 須賀川拓 記者:
増尾記者の報告にもありましたが、たくさんの難民が集まっていました。アサド政権の弾圧などによって、シリアから逃れた難民の数は680万人とも言われています。想像を絶する数ですが、こうした人たちが戻る国が今後どうなるのか。少し時計の針を戻してみたいと思います。

まずアサド政権が崩壊する前の勢力図は大体このような感じでした。中でも地図の左側の「反体制側」が今回、大きな役割を担いました。

いろいろな主義・主張がある中で今回は「反体制側」がいろいろな方向を向きながらも一枚岩になった。これがまず一つの大きな要因です。

さらに「アサド政権側」にも欧米の経済制裁が非常によく効いていた。要するに、軍隊とか兵士に払う給与すら滞っていたのではないかと言われています。そうなると当然、戦いのモチベーションというのは反体制派と比べて全然違います。「アサド政権を支えよう」と思う兵士はほとんどいなかったのではないかといわれています。

国外勢力も今回大きなポイントでした。ロシア、イラン、そしてレバノン(ヒズボラ)がアサド政権を支援していましたが、今回その影響力は一気に低下してしまった。皆さんご存知の通り、ロシアはウクライナ侵攻を抱えていますし、イランやヒズボラもイスラエルとの対立で国外に目を向ける余裕がなくなってしまった。

戦争は1か所で起きているものは、あらゆるところで相互関係で作用し合っていて、本当に地続きだなっていうのをこれだけ改めて感じます。

AIエンジニア 安野貴博さん:
たった12日間の攻勢でここまで大きく状況が変わるのか、というところにまず驚きました。やはり、一番気になるのは今後安定した政権をシリアの中で作ることができるのか、あるいは、その国家の舵取りがどのように行われていくのかというところですが、そういったところはどうなのでしょうか。

須賀川 記者:
まず、全く別の主義・主張に立っている勢力が、共通の敵であるアサド大統領がいなくなったことにより、バラバラになるのではないかというのが一つの懸念です。

もう一つの懸念は、今回反体制を率いたトップのシリア解放機構のジャウラニ指導者は「平和的な権力移譲」「アルカイダとの関係はない」と明言しています。ただ、こういった指導者が平和的な道筋を示したとしても、末端の戦闘員がそれについていくかどうかはわかりません。

アサド大統領に友達や家族を虐殺された人たちは大勢います。そして、アサド信派の市民ももちろんいます。例えば私刑、自分で復讐をしに行ってしまうなど、そういったことで治安が一気にガタついてしまうケースももちろんあり得るので、その治安をどこまで維持できるか。今後大きな課題になるのではないでしょうか。