まさに「いきなり!」と言っていい発表でした。アメリカのトランプ次期大統領は25日、来年1月の就任初日に、メキシコとカナダからのすべての輸入品に25%の関税を課すと共に、中国からの輸入品にも10%の追加関税を課すと表明しました。当選早々、関税戦争を仕掛けるトランプ劇場の始まりです。

自由貿易相手国に25%関税
メキシコ、カナダは、自由貿易協定であるUSMCA(旧NAFTA)の相手国です。一定の条件を満たしていれば、国境を越えても輸入品には関税がかかりません。旧NAFTA(北米自由貿易協定)が発効した90年代以来、多くのモノが国境を越え、北米大陸をまたがるサプライチェーンが作り上げられました。
発表はトランプ氏のSNSを通じてのみで、品目や背景、税率の根拠など詳しい説明が全くないというのも、トランプ流です。トランプ氏は決定の理由について、「麻薬、特に合成麻薬フェンタニルと、そして全ての不法移民の侵入を止めるため」としており、麻薬や不法移民対策を両国に迫っています。
移民対策取引のための先制パンチ
トランプ氏が貿易赤字や雇用問題を理由に関税戦争を仕掛けてくることは、誰しも予想していましたが、その第1号の理由が、貿易や経済の問題ではなく、麻薬と不法移民だったことも、トランプ流と言えます。
考えてみればトランプ氏の選挙戦で、不法移民とそれに絡む安全の問題を、経済と並ぶ最優先課題としてアピールしました。そうであれば、関税で脅しをかけて、メキシコ・カナダ両国に対策を迫るというのは、「戦う大統領」を印象付けるという意味で理にかなっています。25%という高い関税率をいわば、最初にふっかけて、両国の対応次第で、時期や品目、税率を緩和していくというやり方が透けて見えます。
トランプ氏にとっては、対策の実効性以上に、自分の仕掛けたディールによって相手が動いたと事実こそが、何より重要なのでしょう。
メキシコは「米経済が傷つく」と警告
こうしたトランプ流の脅しを、メキシコは十分予想していたのでしょう。メキシコの経済相は27日、早速、25%関税が課せられれば、「アメリカで40万人雇用が失われる」との試算を公表し、「自分で自分の足を撃つようなもの」と警告しました。その上で、アメリカで販売されているピックアップトラックの8割がメキシコ産で、GMなどビッグ3の車は「最低でも1台3000ドル値上がりする」との推計を明らかにしました。
相手国だけでなくアメリカ経済にも打撃になるとの見方から、26日のニューヨーク株式市場で、GMは9.0%安、フォードは2.6%安、ステランティスは5.7%安と、ビッグ3の株価は急落しました。
ちなみにアメリカが輸入するアボガドの90%、オレンジジュースの35%はメキシコからとされており、本当に25%関税となれば、相手国だけでなく、米国民の生活に直接影響を与えることになります。