2018年2月、九州学院からヤクルトに入団し、プロ1年目のキャンプを2軍で迎えていた村上は、野村克也さんと初対面を果たしていた。「ID野球」でヤクルトを3度の日本一に導き“ノムさん”と親しまれた名将は、当時18歳の村上にバッティングの奥深さとプロとしての心構えを説いていた。

バッター全員のテーマはたったひとつ。変化球の対応をどうするかだ。まっすぐ狙って変化球についていければ一番良い。でもある程度狙わないとついていけない。配球を読むことだね。
ディレクター:
(村上選手は)元はキャッチャーなんですよ。
野村さん:
キャッチャーやってほしかったね。嫌いなの?
村上選手:
自分は嫌いじゃないです。
野村さん:
バッティングを生かすならキャッチャーやったほうが良い。微妙な配球の妙はキャッチャーしかわからない。テッド・ウィリアムズって知っているか?
村上選手:
いや、知らないです。
野村さん:
メジャーリーグの左バッターで一番の強打者。この人の打撃理論の中に書いてある。あれだけのバッターが「プロスポーツのなかで一番難しいのはバッティングだ」と言ってるんだよ。説得力あるよな。バッティングは難しい、そう思って取り組んだ方がいいよ。テッド・ウィリアムズが言ってるんだから。
※テッド・ウィリアムズは1939~1960年にレッドソックスで活躍した外野手。MLB最後の4割バッター。

ディレクター:
練習が・・・まだあります・・・。
野村さん:
練習も大事だけど話を聞くのも大事だ。
(一同笑い)
野村さん:
こういうチャンスってないじゃん。・・・村上?
村上選手:
はい、そうです。
野村さん:
王の記録(55本)なんて破っちゃえ!とりあえず俺の記録(52本)破れ。
新しいものを開発して「プロ野球に村上あり」と。
本当に今日は良いものを見せてもらった、有難う。また注目ポイントが一つできた。新しい歴史を作らないと。バッティングはバランスだから。その大きな体とバランスの戦い。まあ新しいものを作れ。実力の世界だから。結果さえ出せば人は黙るから、黙らせるように。頑張って。

有難うございました。
ディレクター:
記念撮影二人でどうですか?
村上選手:
いいんですか?
野村さん:
プロ野球はファンあってなんぼの世界。いっぱいファンを作ってお客さんに魅せるプレーを。
高津臣吾2軍監督(当時):
期待していますよ!

「本日、打ちました。53号本塁打のボールは、野村克也さんに差し上げたいと思います。
東京ヤクルトスワローズに入団し1年目のキャンプの時に初めてお会いして、少しの時間でしたがお話させていただく機会がありました。その時に1年目の私に『とりあえず俺の記録を破れ』とおっしゃっていただきました。その時は、こんな日が来るとは思っていませんでしたが、野村克也さんの本塁打記録を上回ることが出来ましたのでいつの日かご報告に伺って差し上げたいと思います」
9月13日の巨人戦では54号と55号を放ち王さんに並んだが、そこから足踏みが続いた。実に20日、61打席ぶりとなったメモリアルアーチに「ホッとしましたしやっと打てたなと。長い1本だった」と安堵の表情を浮かべた村上。「今シーズンこうして偉大な方の記録を破ることができて嬉しいですけど、もっともっと王さんだったり野村さんだったり落合さんだったり、いろんな先輩方はもっともっとすごい偉業を成し遂げていますし、僕もこれから続けていくのが大事なのでもっともっと長いシーズンこういう成績を残せるように頑張りたいなというふうに思います」。
22歳にして歴史的偉業を成し遂げた若きスラッガー。名将との“約束”はわずか4年8か月で果たされた。
【村上選手年度別成績】
2018年 6試合 12打数 1安打 打点2 本塁打1 打率.083 盗塁0
2019年 143試合 511打数 118安打 打点96 本塁打36 打率.231 盗塁5
2020年 120試合 424打数 130安打 打点86 本塁打28 打率.307 盗塁11
2021年 143試合 500打数 139安打 打点112 本塁打39 打率.278 盗塁12
2022年 141試合 487打数 155安打 打点134 本塁打56 打率.318 盗塁12