人工呼吸器による呼吸管理など医療ケアが必要な子どもたちは年々増加傾向にあって
全国に2万人、県内にも400人以上います。

去年、医療的ケア児に関する法律もできてその支援のありかたに注目が集まる中、県内では医療的ケア児の国吉志生(ことは)ちゃん1歳が全国初と見られる試みに挑もうとしています。


Qどうですか今、初めて志生ちゃんが伊平屋島にきて?
母・國吉早紀さん
「もっと感動的かと思ったけど忙しくて、お家に連れて帰ったら一気にうれしくなるのかな」

8月19日、初めて伊平屋島へ向かった国吉志生(ことは)ちゃん1歳。その目的は「試験外泊」です。

気管切開した首や鼻に様々な管がつながる志生ちゃんは去年、妊娠6か月の時、403グラムで生まれました。試験外泊では移動や生活する際のリスクを確認します。

訪問看護師 儀間真由美さん
「今酸素のボンベがそのままだと横になってしまうので船員の方がフックをつけてくれるって話で」

移動する船には伊平屋の知り合いがたくさん、ボンベを立てるため急きょフックをつけるなど、船員がすぐに対応してくれました。

母・早紀さん
「伊平屋だったら帰っても、最初は好奇の目にさらされるかもしれないけど、みんなが受け入れてくれる」


治療のため1年以上家族と離れて、母と本島中部や名護で過ごした志生ちゃんでしたが、
両親は『伊平屋島で育てる』ことを決意しました。医療資源の乏しい小規模離島に、気管切開した患者が帰るのは全国初と見られます。

志生ちゃんを診る医療関係者はこう語りますー

北部病院 伊元栄人(いもと・えいと)医師
「医学的には帰れるだろう。志生の場合は気管切開はあるんですけど、発達に関しては寝返りもするようになっていて、発達をしていると感じています。ご家族が希望するのであれば、それに応えたい気持ちではありました」

訪問看護師 儀間真由美さん
「(今までの患者は)あきらめていたのと、当然島では暮らせないという風に思っていたんだと思います。島であったり、島じゃなくてもその地域で生まれた子が地域に戻るってことは、やはり当然であってほしいなという思い」

とはいえ、様々なリスクがある島への帰島。試験外泊では、志生ちゃんの帰島が本当に可能なのか様々な確認が行われます。初めて伊平屋島に渡る-、そんな感動に酔いしれる間はありませんでした。

自宅に到着してからは、命綱と言える人工呼吸器や酸素濃縮器、送る空気の加湿器などが設置されていきます。

オキナワメディカルサポート 山城正行さん(医療機器の担当)
「今後の課題としては離島での停電が心配でありまして、発電機などを整備できればいいのかなと思いますし、私も初めての試みで心配はありますけど、自宅に帰してあげたいというのが私の思いではありますので」

母・早紀さん
「水切りが夏場は外気温との差で水がすぐたまっちゃって、夜中でも1時間に1回は起きて水を切ったり、本当に落ち着かないですね本当に眠れない。(危険を知らせる)アラーム音が鳴って、夜がきついですね、しんどい、だから早く島に帰って精神的に落ち着きたいし、こっちにいるといるじゃないですか助けてくれる人は」

沖縄本島でケアに当たっていた訪問看護師は、島の保健師らに必要事項を引き継ぎます。
首に巻く人工呼吸器のバンド交換は少し難しい作業。離れて暮らしていた父・圭司さんも一緒に練習します。

父・圭司さん
「毎回緊張します。(妻は)眠れていない疲れがたまるから、頑張っていくしかない」

家族の支えはありますが、本島では毎日利用できた訪問看護師やヘルパーの支援は激減します。島の保健師がフォローには入りますが現実を目の当たりにすると…

母・早紀さん
「自分の住んでいたお家に帰ってきて、客観的にこの機械類を見るとケア児だなって感じですね、本当になんかどこの病院の人たちも、離島で呼吸器もって帰るのって感じで、みんながびっくりすることの重大さがだんだん今少しずつ分かってきたというか、なんか大丈夫かなって不安と、怖いなっていうのもありますね

すると自宅に救急車が到着。駆け付けたのは伊平屋島の消防団員たちです。島での救急の場合は、彼らが救急車で駆け付けます。島唯一の診療所を担う下地医師や看護師とともに緊急時の対応を確認します。

伊平屋診療所 下地遼医師
「慌てるとこれ持ってきていないとかいろいろあると思うので、チェックリストがあるといいかもしれない」

Q志生ちゃんのために大集合ですね?
母・早紀さん
「見てごらん、志生のためにみんな勉強しているよ、ありがとうございます」

その命を守る。たとえ医療資源が乏しくて、島の結束を生かして。緊急時の対応が確認されました。

下地医師
「本当に人が少ない中で自分が何ができるのかってことを考えながらやっていると思います。この子だけじゃなくてお父さんお母さんの心のケアや体調のケアにも気を配ってあたりたいと思います」

これからの対応について忙しくチェックを行う中、わずかな時間ですが志生ちゃんは初めての海へ。兄の峻礼(たから)ちゃんと共に故郷の自然を体感しました。

母・早紀さん
「この島で大変なことをしながら育てていこうとしているんだと思ったんですけど、でもやっぱり島で育てていきたいと強く感じました。もっともっと楽しいことがあるよって、教えてあげたいと思います」

島の自然と人の温かさに包まれて、志生ちゃんの伊平屋島への帰島が決まりました。

様々な課題が出てくると思われる、これからの志生ちゃんの島での生活。しかし島全体で子育てをする小規模離島だからこそできる方法があるのではないでしょうか。