亡くなる直前になって “父の子で良かったと思う” って…
日記:昼までは死にたかったけど、週報作ってたら死ぬ気なくなった
日記:悪夢を見ずに目がさめた
日記:マンゴーフローズンがうまい

日記:日曜の休日出勤をクリアし、生きのびることができた
日記には、死をほのめかす表現がある一方、ささいな幸せをつづることで懸命に生きようとする意志も見られました。
中には、父親に宛てた遺書とみられる文章も…。

日記:今、おれは仕事が全然できなくて、毎回おこられてばかりでとても辛い。なぜか今になって父のことを思い出す。朝早くから遅くまで働いていることはスゴイ…30年近く、それを続けることは並外れた努力のたまもの。今になって父の子で良かったと思う

上田直美さん「今になって “父の子で良かったと思う” っていう。これ読んだ時はやっぱり自死だろうなと思いました」
さらに、優貴さんが自ら飛び降りたとみられる防犯カメラの映像もあり、上田さんは息子の自殺を確信したと言います。しかし、会社側は「通常の事故として労災申請をしたい」と申し出てきたと言います。
上田直美さん「通常の事故としてということでしたら全く息子の事故がなかったようにされてしまう。息子の存在すらなかったかのようにされてしまうのは、やっぱり親としてはありえないですし、即答できませんって…」

上田さんは優貴さんが亡くなったタイの事故現場を視察。弁護団とともに事故の真相を調べ、日立造船に第三者委員会の設置も要望しました。
しかし、2023年11月に出された第三者委員会の調査結果は「自死か偶然の事故か認定できない」というものでした。ただ、弁護団の安田知央弁護士は、第三者委員会の調査結果に強い不信感を持ったと言います。

遺族弁護団 安田知央弁護士「第三者委員会の調査報告書が参照した資料の中には、防犯カメラ(優貴さんが転落した)映像がなかった。これはどういうことなんだと。なんでそんな大事な資料を第三者委員会に提出して、これをもとに調査してくださいと言わなかったのか」

上田さんは優貴さんの労災を申請。大阪南労働基準監督署はことし3月、「海外での経験のない業務や上司からの叱責で精神障害を発症していた」として自殺での労災を認めました。
弁護団を仕切り、過労死問題に長年取り組んできた岩城穣弁護士は海外では労働時間を示す情報が日本より不足しているため、タイでの過労自殺を立証するのは困難を極めたと話します。

遺族弁護団 岩城穣弁護士「タイムマネジメントシートというですね。勤務管理表みたいなものがあるわけですけど、それが必ずしも実態を反映していない。現場までの移動時間だとか、ホテルへ戻ってきてからの日報作成の作業とかそういったものについてはそこのシートには入ってないわけですよね。実際の労働時間の把握というものについてハードルがあったと」
実際の労働時間を割り出すために、上田さんは優貴さんのパソコンにあった同僚との英語のやりとりをソフトを使って日本語に翻訳。さらにメールの送信履歴をタイ時間に直すなどし、地道な努力を重ねて労災認定を受けることができたといいます。
一方、日立造船は今も自殺とは断定しておらず、謝罪もしていません。
今、上田さんが会社側に求めることは─。

上田直美さん「海外では孤独になりやすいということですね。日本語で話ができないっていうのはやっぱりすごくストレス。メンタル面のフォローを今後、会社としてどうされていくのかっていうのを。海外派遣者マニュアルっていうものをきちんとつくってもらうということがひとつ」

8月2日、大阪市内。遺族側と会社側の弁護士が
初めて話し合いの場を持ちました。
上田さんが会社側に求めている海外派遣時の勤務マニュアル作成や損害賠償金などについて協議が行われたのです。協議は約1時間にわたりました。

岩城穣 弁護士「こちらとしては賠償の問題、ある意味それ以上に(過労自死の)防止策について同じような被害を出してほしくないというご遺族の気持ちを前面に出した話し合いをしたいと…」

この翌日、上田さんが大阪を訪れました。命の大切さを考える集会で、遺族として発言をするためです。
会場には、上田さんと同じように遺族として招かれた女性も。神戸市内の病院で月207時間の残業の末に自殺した医師の母親、高島淳子さんです。2人は互いに励まし合ってきました。

上田直美さん「先に労災認定、高島さんがされた時、本当にうれしくて。

過労自殺した医師の母 高島淳子さん「上田さんの方が1年前に亡くなられてるんです。上田さんの場合は地方ですし、ましてタイプラントっていうところで言葉も通じない中、それを私、労災申請やってくれてる兄に言いましたら『うちより50倍、100倍、500倍大変や』って。やるべきことを淡々とされてるのがなかなかできないことだなと思って。それは本当に尊敬しています」
集会で、上田さんは企業のグローバル化が加速する中、海外での過労自殺を社会問題として捉える必要があると訴えました。

上田直美さん「海外ならではの言語や生活習慣の違い、メンタル面でも孤立しやすい状況をどう組織としてフォローしていくのか。社会全体としても海外勤務での過労死や精神疾患を考えてほしいと思います」
上田さんが遺族として公の場で発言をするのはこれが3回目です。なぜ、息子を自殺で亡くした経験を発信し続けるのでしょうか。

上田直美さん「(息子の)同僚とか後輩から温かいお手紙をいただいて。海外に行って同じ目に遭わないように改善というものをきっちり会社に求めていくことで何かが変わって、息子の分まで活躍してくれればなと思っております」

日立造船は取材に対し「誠意を持ってご遺族に対応させていただきたいと考えております。安心して働ける環境づくりに今後さらに注力してまいります」としたうえで、出張者へのフォローやコミュニケーションツールの導入に取り組むとしました。

毛田千代丸キャスター「実態の把握が困難な海外での就労環境。従業員が安心して働ける環境をどう整え、再発防止につなげるのか。日立造船にはグローバル企業としての姿勢が問われています」














