皇帝のみが使える龍も…「北京と瀋陽の明・清朝の皇宮群」

北京の故宮

ドラゴン=龍と血縁関係にある…これは中国の皇帝と同じです。皇帝は龍の子孫、または龍の化身と考えられていて、それは中国の世界遺産でも見ることができます。

たとえば世界遺産「北京と瀋陽の明・清朝の皇宮群」。その構成資産のひとつ、皇帝が暮らした北京の紫禁城、現在の故宮を番組でも撮影したのですが、至る所に龍をモチーフにした装飾が施されています。

故宮の皇帝の玉座

玉座のある太和殿には1万点以上もの龍が彫り込まれ、軒先の飾りや内装の彫刻、天井に至るまでどこを見ても龍、龍、龍…といった印象。その多さに圧倒されます。特に「5本の指を持つ龍」という意匠は皇帝のみが使えるもので、皇帝の服や専用の磁器には5本指の龍が描かれており、他の王族等のものに描かれているのは4本指や3本指の龍なのです。

故宮を飾る龍

ちなみに、故宮の屋根には独特の黄色の瓦が使われているのですが、この黄色もインペリアル・イエローと言って、かつては皇帝のみが使うことのできる色でした。

中国の世界遺産「黄龍」

中国にはこの黄色と龍を併せた世界遺産「黄龍」もあります。こちらは四川省にある自然遺産ですが、標高3000メートル以上の高地に、黄色の石灰棚がまるで龍の鱗のように続くことから「黄龍」と名付けられました。まるで天を翔る龍の姿・・・かつては聖地とされた黄龍は他に類を見ない自然の美しさが評価されて世界遺産になっています。

龍の鱗のような黄色の石灰棚

西洋ではドラゴンは騎士が倒すべき悪しき存在であることが多いのですが、アジアのおける龍は強く高貴な存在と考えられてきました。その最たるものが、龍を皇帝の象徴とした中国です。島で最強の生き物であるコモドドラゴンを、ヒトと兄弟としているコモド島の人々の考え方も、このアジアの伝統に則っているのかもしれません。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太