そして大会前日。大会事務局に続々と選手たちが到着し、装備や健康チェックが行われる。そこへ1人の選手が到着した。

静岡県の消防士・望月将悟選手44歳。過去にトランスジャパンアルプスレースを4連覇した伝説のトレイルランナーだ。実は、稲崎がこの大会に挑戦したのは、優勝する望月選手を見たことが大きかった。

望月将悟選手
「(過去に)4連覇して今回で6回目、12年間いろんな人に出会ったり、景色を見たりしたし、アルプスの雄大さも肌で感じてきました。(この大会は)レースという名前はついていますけど、それぞれがいろんな思いをもってゴールを目指しています。過酷と楽しさの境目。乗り越えた時に自分が変われるんじゃないかという思いでやっている」




少し遅れて、稲崎が現れた。

稲崎
「遅れました。ギリギリまで仕事しとって。ちょっと、どきどきしてますね。あー、すごい。なんかちょっとビビッてます」




選手たちは到着するとすぐに30項目近い装備のチェックを行う。しかし、稲崎は1つ失敗を犯してしまう。レースの中間地点で、大会期間中に唯一、装備の補充が許されている長野県伊那市のチェックポイントに、誤って予備のヘッドライトとバッテリーを送ってしまったのだ。コンビニで予備のバッテリーを買うことで、危うく失格を免れた。

装備と健康チェックを終えた稲崎は。

稲崎
「集中してやっていくしかない。長丁場なのでどこまで集中力が持つか」

そして出発直前。スタート地点に集まった選手たち。中には日本海の海水の味を確かめる人も。今大会で最高齢の62歳、福井県の竹内雅昭選手だ。

竹内雅昭選手
「どっちの水がしょっぱいかのお。太平洋と比べますよ。この味を覚えてて太平洋で比較してみよう」


稲崎の会社の同僚やランニング仲間が大勢応援に駆けつけた。
スタート地点では、それぞれの思いを胸に、大切な人と写真を撮る選手たちの姿が見られた。
そして稲崎も妻・美也子と写真を撮った。

稲崎
「結婚式以来やなあ」


出発時間が迫ってくる。選手たちがお互いの健闘を願って言葉を交わす。
稲崎も選考会でも一緒だった選手に、一緒に頑張りましょうと声をかけた。

そしてついに出発の時
「3,2,1スタート」



8月7日午前0時。日本海から太平洋まで415km。
日本アルプスを縦断する日本一過酷なレースが始まった。


稲崎謙一郎54歳。極限の挑戦の果てに何が待っているのだろうか?

(後編に続く)