ダイレクトアナストモーシスでしか治せない心臓とは
現在狭心症や心筋梗塞に対する治療は先ほども述べましたカテーテル治療と我々心臓外科医が行う冠動脈バイパス術に分かれます。
冠動脈バイパス術では自身の動脈や静脈を使用して(グラフト)迂回路(バイパス)を作ります。現在1番良く使用されるグラフトは左内胸動脈(LITA リタとかLIMAリマとか言います)で上手く繋げば20年以上血液が流れ続けるといわれています。主に左冠動脈の前下行枝(LAD)に繋ぐことが多く、このバイパスをLITA-LAD(リタエルエーディー)と言います。次に右内胸動脈(RITA ライタやRIMAライマとか言います)、次に足の静脈(大伏在静脈と言います)、後腕の動脈(橈骨動脈)や胃の動脈(胃大網動脈)などがグラフトとして使用できます。それらは採取しても身体機能にほとんど問題はございません。
今回のソヒョンさん(虚血性心筋症とは簡単にいうと狭心症や心筋梗塞により心臓の筋肉が痛み心臓の機能が落ちたり不整脈が出るような病気です)は、両側内胸動脈起始部閉塞といって内胸動脈の根本が詰まってしまっている状態でした。
根本が詰まっていると血液が流れませんのでグラフトとして使用できません(途中の正常なところは使用できます)。20年以上持つと言われるLITA-LADが出来ないわけです。右の内胸動脈の根本も詰まっているので使用できません。
橈骨動脈も動脈硬化で使用できず、胃の動脈も使用できないとの結果でした。
唯一使用できるのが足の静脈(4本採れます)の1本だけ。足の静脈でのバイパスは本編では5年と言っていましたが10~15年くらいは流れ続けてくれます。静脈の採取の仕方は周りの脂肪を剥がして採るか、脂肪も一緒につけて採取するか、内視鏡で採るかなど色々あり、どの方法が一番長く流れてくれるか研究が進んでいる状況です。
ソヒョンさんはまだお若く静脈でのバイパスでは十分ではないと判断され、天城先生のダイレクトアナストモーシス(内胸動脈で冠動脈の閉塞部分を取り替える方法)に託されたという設定でした。
これは非常に珍しい場合で、両側の内胸動脈の根本(起始部)が閉塞しているという方は私は出会ったことありません(片方なら数人いました)。全身の動脈が炎症で細くなってしまう動脈炎のような方々だとこのような場合もあるようですが、非常に珍しいです。内胸動脈は一番動脈硬化が起きにくいと言われていますので、ほとんどの患者さんに私は両側の内胸動脈を使用したバイパス術を行っています。














