心タンポナーデを診断した天城先生の視点
次は冒頭で天城先生が登場した処置のシーンの解説です。
ビーチで心臓マッサージされている少年(10歳くらいの設定)を世良先生と垣谷先生が見つけます。世良先生が心臓マッサージを代わり、垣谷先生は気道確保して人工呼吸をしようとします。頚動脈を触り、脈がないことを確認してます。
世良先生は少年の首が腫れていることに気付きアナフィラキシー(クラゲに刺されたとか…)じゃないかと、またVf VT(致死性不整脈)時のDC目的でAEDを取りに行きます。
垣谷先生は確かに人工呼吸をしたときに肺に空気が入りにくいかも…と判断して(自分ならこの状況だと少年の口にビニール袋つけた手を突っ込んで異物がないか腫れてないかなど判断する…)ボールペンで喉の気管に穴をあけようと振りかぶります(リアルだと自分ならハサミで皮膚をある程度切って気管まで辿り着いてからボールペンを刺して内筒抜くと思う…)
そこで天城先生にガシッと止められる。
よーく映像見ていただくとわかるかな…
近くにサーフボードがあります。また少年の左胸の乳首の下あたりに水着が破れているところがあるんです。
映像だと垣谷先生がその穴に指を入れて水着を破り、下にアザを発見します。
乳首の位置は解剖学的に第4肋間(上から4番目の肋骨と肋骨の間)ですので、その下は第5肋間になります。左乳首の少し下辺りの左第5肋間にはちょうど心臓の左心室の先端である心尖部があり体表から1番心臓が近い部分なのです。
また少年の顔と首を見ていただくと、わかりにくいのですが少し腫れているんです(もともとの少年の顔はほっそりしててCGで腫らしています)。また色も白ではなく、赤黒いと言いますか紫色しています。これは頭から心臓への血液の戻りが滞っていることを意味します。静脈還流が悪いなどと表現するのですが、これがあると心臓までの間で静脈が詰まっているか、圧迫されて閉塞していると予測されます。一番わかりやすいのは首を絞められた時などです。
天城先生は蘇生現場に向かい、サーフボード、左第5肋間あたりの水着の穴、少年の顔と首を見て、外傷性心タンポナーデと判断しました。
心タンポナーデとは心臓の周りの袋(心囊と言います)に血液や体液が溜まってしまい、心臓が動かなくなってしまう状態です。心臓が周りの血液で圧迫されますので、体からの血液の返りは悪くなり頭、首は腫れてきます。
我々心臓外科は心タンポナーデを最も経験する科です。様々な臨床像を呈するのですが、頭首上肢からの血液が返ってくる上大静脈が圧迫されると著明に顔と首が腫れてくるのです。
今回の少年はサーフボードが左の第5肋間にあたり、心尖部の血管から出血し、心囊に血液が溜まり、上大静脈を圧迫し、顔首が腫れ上がり、さらに心臓が圧迫され動かなくなり心停止となったと予想されます。
処置としましては、天城先生の言った通りです。左第5肋間を開けるとすぐに心膜(心臓の周りの袋(心囊)の膜)がありますので、それを少し切ることにより心タンポナーデは解除されます。世良先生の顔に血が飛んでましたが(もちろん本物ではありませんよ!)、かなりの圧力がかかっていることがお分かりかと思います。圧力が解除されれば心臓は圧迫から解放されて動き出すのです。後は救急車で病院に向かい、まだ出血してれば止血のためにオペが必要となります
天城先生のセリフはその日に決めた感じです。
なんか言いたいんだけど、ないかなあ?
この処置はどれくらい難しい?
みたいな感じでドライ前に聞かれ、大人で太っていると大変だけど、この少年くらい痩せてたらすぐに到達できるよ。などと説明して、「これ心タンポナーデじゃね?…」からのセリフにつながりました。最初本物のビーチなので周りの風の音とか波の音がうるさく、天城先生のセリフが聞き取れず、「今なんて言ったの?」ってスタッフに聞いても誰も聞こえてなくて、急いで撮影現場からブース(監督がモニター見ているところでビーチから300mくらい離れたところ)に戻り「今何て言ったかわかります?」って音声さんとかに聞いたりしたけど結局分からず、またビーチに戻って本人に確認して…日頃の走り込みが非常に生きた撮影でした!
今回のビーチのシーンは色々な案がありましたが、一番動きが大きくダイナミックでストーリー展開が劇的な、さらには心臓外科で多く経験する心タンポナーデの処置になりました。
ちょっとまだまだ解説する要素はあるのですが、今回はここまで! また機会があれば書かせていただきます!
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イムス東京葛飾総合病院 心臓血管外科
山岸 俊介

冠動脈、大動脈、弁膜症、その他成人心臓血管外科手術が専門。低侵襲小切開心臓外科手術を得意とする。幼少期から外科医を目指しトレーニングを行い、そのテクニックは異次元。平均オペ時間は通常の1/3、縫合スピードは専門医の5倍。自身のYouTubeにオペ映像を無編集で掲載し後進の育成にも力を入れる。今最も手術見学依頼、公開手術依頼が多い心臓外科医と言われている。