教員は政府の“喉と舌”になってしまうのか

2021年に香港の高校では「通識(リベラル・スタディーズ)」が別の科目に置きかえられた。通識は時事問題などを複数の観点から考え、香港社会の多様な意見を育んできたとされる。「天安門事件」などもテーマとして扱っていたが、通識によって“反政府的”な考えが生み出されるとして、国安法の標的となったのだ。そして小学校でも科目の変更があり、来年から「人文科」が導入される。この中で児童らは「愛国」や「国安法」についても学ぶこととなる。

香港の小学校教員:
「簡単に言うと『我が国は素晴らしい』と教えなければなりません。教員は教えたくなくても、学校から言われれば選択の余地はありません」

一方で香港はかつて「天安門事件」も「文化大革命」もタブーではなかったし、児童、生徒の親世代はもちろん自由な時代を知っている。こうした背景から、教育局は急速な“中国化”は受け入れられるとは考えておらず、段階的に変更を進めるものとみられる。

男性教員は授業中にデモや政治の話題になると「学校では政治のことは討論しないよ」と“無色透明”を装っているという。今はこの方法で凌げているが、この先教員は政府の“喉と舌”(中国国営メディアが共産党の広報的な役割を担うことからこのような表現が使われる)になることを求められる可能性もある。その時、5年前の民主派による「大規模デモ」について問われれば、どう答えるのか。

香港の小学校教員:
「良心に従えば2019年のことは間違っているとは言いません。しかし、この先は立場を明確にして『黒暴(黒い服を着て暴力をふるった)』『社会秩序を乱した』と言わざるを得なくなるかもしれません」

そのような状況になっても、教員を続けるのか。答えは出ていないようだった。ただ、今はまだ自分が果たせる役割があると断言する。

香港の小学校教員:
「私は1989年の6月4日(天安門事件)を身をもって経験しているので、中国共産党がどういうものか、香港がどうなっていくのか、よくわかっています。信念を持った教員たちは、児童が自分で物事の是非を考え、背景を判断できるよう、上手く解釈して導く自信があります。教育の最後のラインを守っていくということです」

男性教員は終始、淡々とした口調でインタビューに応じた。ただ「凄いプレッシャーです」という言葉には、悲壮な覚悟を感じずにはいられなかった。