中小企業の賃上げの動向

連合がまとめた春闘の賃上げ率は、5月8日時点で全体は5.17%、中小組合は4.66%となっている。

東京大学名誉教授 伊藤 元重氏:
だいたい想定内というか、一般的に賃金で物価に追っかけていくような状況になっているので、まだまだ今後、賃上げが続くかどうかが大きなポイントだと思う。

――焦点は実質的な賃金がどれくらい上がっていくかということ。毎月勤労統計によると24か月にわたって実質賃金は下がっているが、賃金が物価にいつ追いつくのか。

東京大学名誉教授 伊藤 元重氏:
その逆もしかりで、デフレのときに物価の方が先に下がっていき実質賃金が上がっていた時期が非常に長ったので、残念だがまだしばらく時間かかる想定。これをスピードアップさせるためにはやっぱり価格転嫁が求められる。

――今の好循環という議論について。
本来は元々消費と需要が拡大、だから物をたくさん作らなきゃいけないので賃金が上がるようになり、人手が足りなくなって賃金が上がり、それが物価上昇になると、これが普通の好循環。ところが、今日本がやろうとしていることは、まず物価上昇が先に発生。だから賃金を上げましょうということで賃金を上げて、賃金が上がったら消費や需要が拡大するんじゃないかと、こういう論理でやっている。これには無理がないか。

東京大学名誉教授 伊藤 元重氏:
海外と逆。海外は最初に賃金が上がってきたんで、非常に素直にいけた。
日本は海外からインフレ来たから逆になってしまったが、消費需要の拡大に行くかどうかは別問題として、賃金上昇と物価上昇に行く。
やっぱり国内の中で賃金と物価が回り始めたという意味では、これまでとは違うということだろうと思う。

――これをいわゆる商品需要の拡大も含めた循環に繋げ、さらに毎年これが繋がるようにしていくためには、どういう政策が必要か。

東京大学名誉教授 伊藤 元重氏:
おそらく物価上昇そのものは消費を抑える方法があるわけだから、分配効果も含めて、政策的な判断で非常に重要だろうというふうに思う。
要するにインフレによって消費が抑えざるを得ないという人たちをどうやって救済していくかということかと。

――減税だとか給付金だとか、今やってるエネルギーの補助金ということですね。いくつか手段もあるわけで、6月にその定額減税という話があるが、これは効果が出ると思うか?

東京大学名誉教授 伊藤 元重氏:
どれだけ効果あるかはその何万円とかがどう使われるかになってくると思う。
減税ということでそれなりに使う方は多いと思いますから、それなりの効果は期待できる。

――物価モデレートを2%程度にしながら、それを上回る賃金上昇を実現していく。これを毎年続けることが多分大事だと小林さんもおっしゃっていたが、これは可能なことか。

東京大学名誉教授 伊藤 元重氏:
かつてはそうだったが、20年の間に我々のメンタリティの中では、物価が上がらなくて賃金を上がらなくてというデフレ的なマインドが固定定着しちゃったわけですけど、変える時期としては非常に重要なタイミングだと思う。

(BS-TBS『Bizスクエア』 5月25日放送より)

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<プロフィール>
小林健 氏
2010年 三菱商事社長
2016年 三菱商事会長
2022年 日本商工会議所・東京商工会議所会頭

伊藤 元重氏
東京大学名誉教授 専門は国際経済学
経済財政諮問会議民間議員など歴任
近著「世界インフレと日本経済の未来」