若い世代にのしかかる「保守的な結婚観」
さて、では結婚をしない、したくない理由は経済的問題だけなのか? 「いや、むしろマインドの問題が大きい」と、毎日新聞のインタビューに、東京大名誉教授で社会学者の上野千鶴子さんは指摘します。「なるほど」と感じ入ったので、一部をご紹介します。
“男性の経済力が婚姻率と相関する背景にある原因は、保守的な結婚観です。男性は妻子を養わなければならないから経済力がつくまで結婚の資格がない、資格がないから最初から結婚願望を持たない、付き合う意欲もなくなる――。こうした保守的な結婚観が今の若者にもあります。他方、女性の方には、家事・育児をすべて自分が背負わなければならないという保守的な結婚観があります。これが「結婚は損」という考え方に、若い女性を導きます。その結果、結婚に興味がない、子どもは持ちたくない、という女性が増えています。経済要因の背後にある、この保守的な結婚観、ジェンダー観を男女ともに捨てない限り、結婚へのインセンティブ(誘因)は生まれません。だから若い男女に結婚・出産してもらおうと思ったら、家族手当などの金銭的インセンティブではなくて、もっと根本的な社会の構造改革、家父長制からの脱却が必要ということです。まずこれが第一です。”
【データが示す「孤立と貧困」 上野千鶴子さんが読む世帯数の将来推計(毎日新聞)】
男の立場で言うと、専業主婦が多かった私らの世代は明らかに「養う」責任というか義務感がありましたし、その世代に育てられた子ども世代にもそれが根強く残るとしたら、私も責任を感じます。
また、女性に関して言うと、例えば女性の育児休暇取得率は8割を超えているのに男性は1割ほどにとどまり、休業期間も女性は9割以上が半年以上なのに、男性は約半数が2週間未満です。家事や育児に費やす時間も、共働き家庭の女性が1日平均約7時間なのに対して、男性は1時間ですから、女性が「結婚は損」と考えても仕方ないと思います。
上野さんが言っているのは、つまりそういうことで、夫婦別姓制度すら今も認めず、性的マイノリティの差別を禁じる法案に反対して骨抜きにしたり、各地の裁判所で違憲や違憲状態という判決が出ている「同性婚」を「社会が変わってしまう」と認めなかったり――。いずれも今の若者世代の多くが「認めるべき」と考える社会の姿をかたくなに拒む結婚観やジェンダー観が、重く、どんよりと彼らにのしかかっていると、私も感じます。
国民負担なしでできる少子化対策だってある
これは以前もお話ししましたが、G7(先進7か国)で一番出生率が高いフランスで、その回復に大きな役割を果たしたと言われるのが、未婚のカップルにも結婚と同等の権利を認める「パックス」という制度で、フランスでは出生数の実に6割が未婚のカップルから生まれています。同性婚でも養子縁組が認められ、子どもを持つことができます。
今言ったすべて、こうした制度改革には、基本的におカネはかかりません。国民負担なしにできるわけですから、少子化対策が喫緊の課題だと言うのなら考えるべきだと思いますが、面倒な話は先送り。裏金問題も真相解明にはほど遠く、内輪の処分でお茶を濁し、負担金の件も含めて、なんだかその場しのぎばかり。
私には今の日本、親が聞く耳を持たない家で、子どもが「ああはなりたくない」と絶望しているようにも映ります。責任の一端がある昭和世代として、少子化問題はこれからも考え続けたいと思います。
◎潟永秀一郎(がたなが・しゅういちろう)

1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。