(ブルームバーグ):石油製品と原油の価格差「クラックスプレッド」が急拡大している。これまで一部の市場関係者しか注目してこなかった指標が、インフレ動向を注視する中銀当局者らの関心を集めている。
イングランド銀行(英中央銀行)のベイリー総裁は8日、原油価格そのものよりも、クラックスプレッドの急拡大に注目していると述べた。ベイリー氏の発言を受け、欧州中央銀行(ECB)を含め、原油よりも石油製品価格を注視するエコノミストの声が一段と強まった。
背景には、イラン戦争とロシアによるウクライナ侵攻という二つの大規模な戦争により、日量数百万バレル規模の石油精製能力が失われていることがある。石油製品の生産量が不足する中、燃料価格は急騰している。欧州では現在、ガソリンやディーゼルの給油所価格が1バレル換算で370ドルを超えている。
ベイリー氏は「われわれが実際に消費するのは原油そのものではない。原油から作られる製品を消費している」とし、「クラックスプレッドは拡大している。現在、非常に大きな水準にある」と述べた。
燃料価格の上乗せ幅に注目しているのは、ベイリー氏だけではない。
ECBは7月下旬、クラックスプレッドと、精製能力の制約によるインフレリスクに注目した。精製能力の不足によって起きているガソリンやディーゼル価格の上昇は、指標となる原油価格の変動だけでは捉えられず、利上げ観測の拡大にもつながっている。
資産運用会社バンガード・アセット・マネジメントは8月、クラックスプレッドの拡大を理由に、米国のインフレが予想以上に長引くリスクに備えたヘッジを行っていると明らかにした。
一方、トランプ米大統領は米国内の石油精製会社に対し、ガソリンとディーゼルの国内生産を増やすよう求めている。輸送コストの上昇が物価を押し上げ、11月の重要な中間選挙を控える共和党への圧力を強める恐れがあるためだ。
価格抑制が困難
ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の業界アナリスト、ブレット・ギブス氏によると、近年、エコノミストはおおむね主要な原油価格を追えば、石油市場全体の動きを把握できていた。各国政府も、石油関連価格全般を抑えるため、未精製の原油をより多く確保することに重点を置いてきた。
今年に入り、イラン戦争でホルムズ海峡が事実上閉鎖されて以降も、原油価格は1バレル=200ドルに達するとの悲観的な予想ほどには上昇していない。戦争前からの供給余剰、米国の過去最高の輸出、中国需要の予想外の鈍化に加え、少量ながら原油が引き続き同海峡を通過していることが、影響を和らげている。
これに対し、石油製品市場の価格上昇を抑えるのはより困難だ。イラン戦争や、ウクライナとロシアの戦闘では、製油所が攻撃の標的となっている。
ロシア政府は製油所への攻撃を受け、重要な供給源であるディーゼルの輸出を禁止した。一方、ホルムズ海峡を通じた石油製品の輸送は、原油以上に大幅に制限されている。石油製品の輸送には原油より多くの船舶が必要になるうえ、原油市場とは異なり、海峡通過を取りまとめる支配的な海運会社が存在しないためだ。
ギブス氏は、「今回の状況から一般のエコノミストが学んだのは、原油とガソリン、ディーゼルが常に完全に連動すると考えることはできないということだ」と語った。
新たなインフレ指標
ブルームバーグがまとめた適正価格データによると、9日の欧州のディーゼル先物指標は、北海ブレント原油に対して1バレル当たり約75ドル高い水準だった。1月2日時点では、この上乗せ幅は約21ドルだった。ディーゼルの卸売価格は1バレル=175ドルとなっている。給油所では税金や小売りマージンが加わるため、価格はさらに高くなる。
イングランド銀行は7月に公表した金融政策報告で、エネルギー価格の上昇が今年下期の消費者物価指数(CPI)上昇率を約0.4ポイント押し上げると推計した。このうち、ガソリンとディーゼルの給油所価格だけで、平均約0.3ポイントの上昇につながると予測している。
ワシントンのシンクタンク、新アメリカ安全保障センター(CNAS)の非常勤シニアフェロー、レイチェル・ジエンバ氏は「中央銀行当局者は常に、インフレを先取りする新たな指標を探している。石油製品価格は、原油価格だけを見るよりも経済への痛手を測る優れた指標だ」と述べた。
原題:Oil’s Crack Spread Captivates Central Bankers Fretting Inflation(抜粋)
--取材協力:Rachel Graham、Naomi Tajitsu、Alex Longley.
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