・PK戦は心理面も影響し、従来の研究では「先攻有利」が定説である。
・2026年ワールドカップのPK戦では、先攻の成功率が低いなど異なる傾向。
・極限の舞台では従来と異なる心理が作用か。定説を超えるドラマに注目である。
PK戦を心理学・行動経済学の視点から読み解く
2026年のワールドカップで皆さんのこころに残ったのはどのようなシーンだっただろうか。ノックアウトステージでは、90分間で決着がつかない場合には30分間の延長戦が行われ、そこでも決着がつかない場合にPK戦が行われる。PK戦では各チーム5人の選手が順番にゴールキーパーと1対1の状況で蹴り、ゴール数が多い方が勝利となる。5人全員が終わった時点でゴール数が同じ場合は、サドンデス方式となる。今回のワールドカップでは、ノックアウトステージの全試合のうち4つの試合でPK戦が行われた。手に汗握る展開を楽しんだ人も多いのではないだろうか。
PK戦は、技術だけではなく心理面も結果に大きな影響を与えると言われており、そうした心理的な側面も学術的な研究対象となってきた。本稿では、それらの研究で確認されてきたPK戦で見られるプレッシャーの影響について代表的な傾向を紹介するとともに、今回2026年のワールドカップでそうしたこれまでの研究で確認されてきた傾向が見られたかどうかを確認する。
なお、2026年のワールドカップで行われたPK戦は4試合で、総キック数は40本である。2026年のワールドカップで見られた傾向が偶然でないことを確認するにはキック数が少なく、あくまで偶然の可能性が大きい点については、留意が必要である。
PK戦は先攻有利が定説だが…
PK戦は先攻が有利であるというのはこれまで定説であった。経済学の分野の有名な学術誌に掲載された先行研究では、PK戦では先攻チームの勝率は約6割であることが報告されている(Apesteguia & Palacios-Huerta, 2010)。現在のルールではPK戦は、開始前のコイントスに勝ったチームが先攻か後攻かを選択できるため、興味深いことに、選手や監督自身もこの有利さを認識し、コイントスに勝った場合にはほぼ必ず先攻を選ぶことも確認されている。
この先行研究では、先攻チームは先に成功することで相手を『追いかける立場』に置きやすく、その『追いかける立場』が心理的プレッシャーを生み、後攻チームの成功率を下げるという心理的メカニズムを示唆する結果を示している。また、実際に選手たちがコイントスに勝った場合に先攻を選ぶ理由として、相手に心理的プレッシャーを与えるためであると述べた人が多かったことも確認している。
しかしこうした先攻有利の定説とは反対に、2026年のワールドカップでは、ノックアウトステージで行われたPK戦の4試合のうち、4試合すべてで後攻チームが勝利したため、一部のサッカーファンの間で話題となった。ちなみに、コイントスに勝利して先攻を選んだチームは4つのうちエジプトを除く3つであり、コイントスに勝って先攻を選んだチームはすべて敗退したことになる(Opta Analyst, 2026)。

最初の失敗は勝敗を決めるのか?
4戦中4戦すべてで後攻が勝利したとしても、先行研究が示すように『追いかける立場』が心理的プレッシャーを生むのであれば、「今回は最初に外したチームが、先攻だったために先攻が負けたのではないか」という感覚が自然に生まれる。実際に、最初のキックの失敗は大きな影響を持つ可能性が指摘されている(Opta Analyst, 2026)。そして、今回のワールドカップでは、PK戦で先に失敗したチームは4チーム中3チームが敗退した。
例えば、
ドイツ vs パラグアイ → ドイツが1本目を失敗し敗退
オーストラリア vs エジプト → オーストラリアが1本目を失敗し敗退
コロンビア vs スイス → コロンビアが2ラウンド目で先に失敗し敗退
という結果だった。
一方で、
オランダ vs モロッコ → モロッコは後攻で最初のキックを失敗したものの、その後勝利
という例外もあった。
つまり、今回のデータだけを見ると、「先に失敗したチームの75%が敗退した」。しかし、モロッコの例に見られるように、先に失敗したから必ず負けるわけではないこともわかる。
『追う側』のプレッシャー
では個々のキックを見てみるとどうだろうか。先行研究で示唆されたように、『追いかける立場』では成功率が下がる傾向は、今大会でも見られたのだろうか。今回のワールドカップの40本のキックを確認すると、結果は意外なものだった。『追う側』のキック成功率は、追っていない状況よりも低いわけではなく、むしろ高かった。つまり今回の大会のデータでは、「追う側だからプレッシャーで失敗しやすい」という傾向は確認できなかった。

さらに、先攻と後攻に分けてキック時の状況別にみると、『追う側』の場合の成功率は先攻と後攻で大きく異ならないものの、同点の場合には先攻の成功率が低い傾向が見られた。今回のワールドカップでは、先攻の選手にとって、「決めなければ相手に先行を許してしまうかもしれない」という意識がプレッシャーにつながったのかもしれない。これは、現在の状態からの悪化を強く意識するという、行動経済学における損失回避による説明とも整合的な可能性がある。ただし、『追う側』の選手にも同様のプレッシャーがかかり得るため、今回見られた違いが損失回避によるものかどうかは、本分析だけでは判断できない。また、本分析は40本という限られたサンプルに基づくものであり、同点場面で見られた差が偶然による可能性も否定できない。
『外せば敗退』の場面で『あがる』
『追いかける立場』のプレッシャーと同様にこれまでPK戦の先行研究で確認されてきたもう一つの心理的現象に、プレッシャーによって『あがる』(Choking under pressure)という現象がある。これは、高いプレッシャーのもとで、普段ならできるはずのパフォーマンスが低下する現象を指す。Baumeister(1984)は、プレッシャーによって熟練した運動技能の遂行が妨げられる可能性を示した。スポーツ場面では、より重要な場面ほど「失敗してはいけない」という意識が強まり、かえってパフォーマンスが低下することが考えられる。実際に、PK戦に関する研究では、「決めれば勝利」という場面よりも、「外せば敗退」という場面で成功率が低くなる傾向が確認されている(Jordet & Hartman, 2008)。
では2026年のワールドカップでは、どうだったのだろうか。今回の40本のキックの中で「決めれば勝利」という場面のキックは6本、「外せば敗退」という場面のキックは2本のみであった。そして、「決めれば勝利」という場面では、6本中4本成功しており、「外せば敗退」という場面では2本中2本とも成功していた。そのため、こうした重要な場面で成功率が低下する傾向は確認できなかった。
『追う側』のプレッシャーや『あがる』ことの影響が確認されなかったわけ
それでは、今回のワールドカップでは既存研究で見られたような『追う側』のプレッシャーや『あがる』ことの影響は存在しなかったのだろうか。必ずしもそうとは言えない。
一つの可能性は、ワールドカップのPK戦そのものが、すでに極めて強いプレッシャー状況だったことである。今回のPK成功率は62.5%であり、主要な国際大会のPK戦を分析した先行研究で報告されている73.8%(Jordet & Hartman, 2008)よりも低い水準だった。ワールドカップのPK戦という状況自体が、すでに多くの選手に大きな心理的負荷を与えていた可能性がある。そのため、ワールドカップ全体のプレッシャーと『追う側』や『外せば敗退』という場面でのプレッシャーの上乗せ効果が観察されにくかった可能性がある。
この点は、ワールドカップという特殊な大会に限れば、先攻有利が必ずしも明確ではないこととも整合的である。ワールドカップでは、今回の2026年大会を除く過去35回のPK戦で、先攻チームの勝利は17回、後攻チームの勝利は18回とほぼ半々だったと報告されている(Opta Analyst, 2026)。
また、ワールドカップでPKを任される選手は、代表チームの中でも重要な場面を託される選手である。極限状況への対応力を持つ選手が選ばれている可能性もある。さらに、もっとも重要な点は、今回分析したのは40本という限られたデータである点である。行動経済学やスポーツ心理学の研究では、多数の試合や多くの選手のデータから平均的な傾向を明らかにしている。一方、ワールドカップのような特殊な舞台で行われた40本だけでは、偶然によるばらつきも大きいのだ。
データとドラマの両方を見る面白さ
今回の分析では、2026年のワールドカップにおいては、PK戦にまつわる「こころのクセ」は明確には確認できなかった。しかし、それはPK戦に心理的な要素がないという意味ではない。研究が示す平均的な傾向を知ることは興味深いが、一方で、目の前で起きる一つひとつのPKには、その選手やその環境だけで見られる判断やプレッシャーがある。データから平均的な傾向を知りながら、個々の選手のドラマにも注目すると、PK戦はさらに奥深く楽しめるのではないだろうか。
参考文献
Apesteguia, J., & Palacios-Huerta, I. (2010). Psychological pressure in competitive environments: Evidence from a randomized natural experiment. American Economic Review, 100(5), 2548–2564.
Baumeister, R. F. (1984). Choking under pressure: Mechanisms and countermeasures. Journal of Personality and Social Psychology, 46(3), 610–620.
Jordet, G., & Hartman, E. (2008). Avoidance motivation and choking under pressure in soccer penalty shootouts. Journal of Sport & Exercise Psychology, 30(4), 450–457.
Opta Analyst. (2026, July 7). “Does Going First or Second in a Penalty Shootout Matter?”
(https://theanalyst.com/articles/penalty-shootout-does-going-first-or-second-matter, Accessed on July 23, 2026
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子 )
