(ブルームバーグ):米国、イスラエルとイランの衝突で原油価格が急騰し、国際エネルギー機関(IEA)加盟国は4億バレルの協調放出を決めた。全体の約2割を放出する日本は16日に民間備蓄、26日に国家備蓄の放出を開始。27日には福岡県の備蓄基地で放出の模様を報道陣に公開した。石油輸送の要衝であるホルムズ海峡の事実上の封鎖が続く中、追加の備蓄放出が今後の焦点になりそうだ。
石油備蓄とは何か?
石油備蓄は戦争や災害、海峡封鎖などで輸入が滞り、国内で石油製品の供給がひっ迫したときに備えて、平時から原油や石油製品を蓄えておく仕組みだ。IEAの枠組みでは、加盟国は輸入量の90日分以上の原油やガソリン、軽油などの石油製品の在庫確保の義務を負っている。
日本の備蓄はどうなっている?
日本の石油備蓄は以下の3本立てだ。
- 政府備蓄:国が保有し、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が主体となって原油を中心に備蓄している。リスク分散の観点から北海道から九州まで全国10カ所に点在する国家石油備蓄基地で貯蔵しているほか、民間企業から借りたタンクにも貯蔵されている
- 民間備蓄:石油会社や商社など石油精製・輸入を手掛ける民間企業に義務付けられた備蓄で、消費量の70日分相当を蓄えることが求められている
- 産油国共同備蓄:日本国内のタンクを政府が支援する形で中東産油国の国営石油会社に貸す仕組み。各国営石油会社は平時には東アジアの供給拠点として利用しつつ有事には日本が優先的に活用できる仕組みで、サウジアラビアとアラブ首長国連邦、クウェートの国営石油会社が相手先となっている

経済産業省によると、2026年1月時点の日本の石油備蓄は3種類の合計で248日分だった。イラン情勢を受けて同省が公表している推計値によると、21日時点で計240日分となっている。
備蓄の放出とは何をするのか?
放出には、入札を通じた国家備蓄の売却や、民間備蓄では義務量を削減して在庫の取り崩しを容認する方法などがある。市場への供給を増やして需給のひっ迫を解消したり、価格高騰を緩和したりする措置だ。他のIEA加盟国との協調行動として実施されることが多い。IEAのビロル事務局長は必要であれば石油備蓄の追加放出も可能だとしている。
ただし効果には限界もある。備蓄の取り崩しは一時的な対策に過ぎず、供給の途絶が長期化したり、紛争やホルムズ海峡の封鎖のような根本的な原因が解消しない場合は、価格や需給への影響は一時的なものに終わる。
米エネルギー情報局(EIA)によると、2024年にホルムズ海峡を世界の少量の約20%に当たる日量約2000万バレルの石油が通過した。IEAは供給側の対策だけでは完全に相殺することはできないとして、需要への対応が必要だとして在宅勤務の推進、公共交通機関の利用促進、高速道路の制限速度の引き下げなどを提言している。
また、国家備蓄の放出では売却入札の実施後も運ぶためのタンカーの手配や、買い手側の受け入れの貯蔵設備の空き状況なども受け渡し時期に影響することから、需給の改善効果が出るまでには一定の時間がかかる可能性もある。
協調放出の内訳は?
IEAによると、加盟国の中で最大となる米国は1億7220万バレルを放出し、日本はそれに次ぐ7980万バレルだ。その後にカナダ(2360万バレル)、韓国(2250万バレル)、ドイツ(1950万バレル)が続く。
日本は16日に民間備蓄の放出を保有義務を70日から55日分に引き下げる形で開始した。26日からは国家備蓄の放出を国内11カ所の備蓄基地から1カ月分の放出を順次始めた。

赤沢亮正経済産業相は27日、産油国との共同備蓄について約6日分の放出を26日から始めたと明らかにした。
世界各国の備蓄量は?
IEAの25年11月時点のデータによれば、石油輸出国のカナダや米国を除き、加盟国合計で613日分の石油を備蓄する。IEA基準の日本の備蓄量は206日分で、G7の英国(120日)、フランス(122日)などと比べると多い。
米国は、メキシコ湾沿いに厳重に警備された4カ所の石油備蓄施設を持ち、7億バレル以上を貯められるという。エネルギー省のデータによれば、現在は約4億1500万バレルにとどまる。ロシアのウクライナ侵攻開始後、当時のバイデン政権が備蓄を放出したためだ。
世界最大の石油輸入国である中国は、さらに大規模な備蓄能力を構築しているとみられる。コロンビア大学グローバルエネルギー政策センターの推計によれば、約14億バレルの原油が保管されているという。

なぜ日本は備蓄量が多いのか?
日本は原油供給の多くを海外に頼っているだけでなく、輸入先は地政学的リスクの高い中東に大きく偏っていることが主因だ。経済産業省の統計によると25年の原油輸入の中東依存度は94%だった
さらに中東からのタンカーはホルムズ海峡や、海賊襲撃のリスクがあるマラッカ海峡といった海上交通の要衝を通る。直接的な海峡の封鎖だけでなく、海峡周辺でタンカーが攻撃されるリスクが高まると保険の引き受けが停止されたり、海運会社がタンカーの運航を見合わせたりすると、日本への原油供給は一気に滞る。まさに足元でそういったことが起きている状況だ。
日本はいつから備蓄に取り組んでいるのか?
起点は1970年代にさかのぼる。1972年に行政指導に基づく備蓄を開始。さらに、73年に第四次中東戦争をきっかけとした第一次オイルショックが発生したことを受け、翌年に備蓄の増強に向けて動き始めた。同年には石油の消費国が連携して危機対応に取り組む枠組みとしてIEAも設立されている。
75年12月に石油備蓄法を制定し、石油の精製や販売、輸入を手掛ける企業に対し90日分の備蓄を義務化した。また、欧米と比べて輸入依存度が高いために90日を超える備蓄が必要との考え方から、78年には石油公団(現JOGMEC)による国家備蓄も始まった。
国家備蓄基地が全国に10カ所建設され、十分な国家備蓄が維持できるようなったことから、民間備蓄は89年度以降毎年度4日分軽減されることとなり、93年度には民間の備蓄義務量は70日分まで減少した。産油国による共同備蓄はアブダビ国営石油会社を皮切りに2009年から段階的に行われている。
過去の放出事例は?
過去に国家備蓄の放出が実施されたのは22年の1回だけだ。ロシアのウクライナ侵攻を契機にエネルギーの需給がひっ迫したため、IEA加盟国が連携して備蓄を放出した。
経産省の資料によると、世界全体で計1億8000万バレルが放出された。日本は国家備蓄から900万バレル、民間備蓄から1350万バレル、計2250万バレルを出した。今年1月の日本の石油各社が精製した原油処理量と比較すると約8日分に相当する。
これ以前に日本は5回の民間備蓄の放出を実施。そのうち3回がIEAとの協調行動だった。
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