(ブルームバーグ):台湾積体電路製造(TSMC)の本社にある駐車場には、ほこりをかぶったフォルクスワーゲンや古いトヨタ車が並ぶ。社内で膨大な利益が積み上がっていることを考えると、少し奇妙に映るかもしれない。
人工知能(AI)向け半導体への世界的な需要が尽きることなく拡大する中、TSMCはアジアで最も時価総額が大きい企業になった。
台湾経済は9220億ドル(約145兆円)規模だが、驚異的な成長を遂げている。2025年10-12月(第4四半期)の域内総生産(GDP)は前年同期比12.68%増と、1987年以来の高成長を記録した。
これを受け、ウォール街の金融機関は台湾経済を巡る予測の引き上げを急いでいる。UBSグループによると、2028年までに台湾でのミリオネアの増加数が世界最大となり、スイスとの差をほぼ埋める見通しだ。
だが、貯蓄志向が強く、格差が目立つ経済の中では、この富の急増は捉えにくい。急成長の立役者とも言えるTSMCの社員ですら、豊かになったとの実感は乏しい。

30代後半のエンジニアであるシュさんのボルボから降り立つ姿が、そうしたギャップを象徴している。
台湾北西部の新竹にあるTSMCの工場で約10年前に働き始めて以降、シュさんの給料は数倍に増えたが、消費行動は変わっていない。所得の約7割を、貯蓄や株式・不動産などの投資に回している。
TSMCの一般社員(管理職以外)の年収は平均約11万ドルと、台湾の平均賃金の4倍だ。公の場で発言する権限がないとして、フルネームを明かさないことを条件に取材に応じてくれたシュさんは、「私たちのようなエンジニアは合理的な消費者の集団だ」と言う。
台湾が直面する状況は、輸出が急増する一方で消費の低迷が広がるという、アジアで一般化しつつある二極化した成長パターンを映し出している。

中国は昨年、内需が弱含む中でも1兆2000億ドルという過去最大の貿易黒字を計上した。韓国も成長を支える原動力として、AIブームへの依存を強めている。
相対的貧困
台湾で好景気の恩恵を受ける人々が示す慎重な姿勢は、ワシントンと北京の断層線上に立つ経済の脆弱(ぜいじゃく)性を一段と高めている。
トランプ米大統領は、TSMCに対し生産の40%を米国に移転するよう圧力を強めており、台湾の法人税収の約2割が失われかねない。これらの税収は、防衛予算や社会支出にとって不可欠で、所得格差の是正にも資する資金だ。
内政部(内務省)が公表した最新統計によると、台北では住宅の平均価格が世帯所得中央値の15倍を超えている。これは、デモグラフィア国際住宅アフォーダビリティーの調査で長年、世界で最も住宅が手に入りにくい都市と分類されてきた香港を上回る水準だ。
拡大する所得格差により、台湾は豊かな経済圏の中でも不平等が大きい地域の一つとなっている。
公式のジニ係数で見ると不平等の度合いは比較的低いものの、世界不平等研究所によれば、所得上位10%が全体の48%を得る一方、下位50%の取り分は12%にとどまり、富の集中は米国よりも極端だ。
中央研究院社会学研究所(台北)の呉介民研究員は昨年のフォーラムで、こうした不均衡が相対的貧困を招いていると述べ、この問題に対処できなければ、与党の民主進歩党(民進党)は「2028年の総統選挙に敗れる可能性がある」との見方を示した。
台湾行政院の李慧芝報道官は5日遅くのコメント要請に対し、「制度的な政策を通じて、政権は企業に対し、経済成長の成果を社会全体と分かち合うよう導くと同時に、影響を受けやすい市民層への支援を継続的に拡充してきた」と書面で回答。
政府は賃上げや減税、金融負担の軽減、社会福祉の充実に重点を置いてきたと強調し、26年予算案では社会福祉関連支出が最も大きな割合を占めていると説明した。
民進党の許国勇秘書長は、家賃補助や育児給付、税控除などの政策が問題の緩和に寄与していると主張している。

原題:Taiwan’s AI Boom Is Minting Millionaires, Stoking Inequality (1)(抜粋)
--取材協力:Fran Wang、Kevin Dharmawan.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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