トランプ米大統領がパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の後任候補に誰を指名するのか投資家が見守る中、重要な論点が浮上している。次期議長候補が6兆6000億ドル(約1046兆円)に上る連邦準備制度のバランスシートをどのように運営するのかだ。

トランプ氏がパウエル議長に利下げ注文を繰り返していることもあり、これまでの焦点は主に、後任候補が大幅利下げに踏み切るかどうかだった。ただ、もう一つの大きな問題は、バランスシートを現在の水準に維持するために米財務省短期証券(TB)の購入を続けるべきか、再び金融市場から一段の流動性を吸収するべきかという点だ。

この選択は、世界の金融機関大手が日々の業務で相互に資金を貸し借りする主要市場に直接的な影響を及ぼす。トランプ氏は来週にも次期議長人事を発表する可能性がある。

有力視されている4人の候補のうち、ケビン・ウォーシュ元FRB理事は、米金融当局の現在の戦略に批判的な立場だ。

ケビン・ウォーシュ元FRB理事

ウェルズ・ファーゴのストラテジスト、アンジェロ・マノラトス氏は、ウォーシュ氏が他の候補者と大きく異なる点について、「連邦準備制度のバランスシートを一層小さくすべきだと強く支持している点だ」と話す。

ただ、米金融当局が進めてきたバランスシート圧縮のプロセスのうち、米国債保有の縮小は昨年12月で終了し、 現在は規模を拡大している点に言及し、ウォーシュ氏の目標達成は「特に複雑化している」と語った。

ウォーシュ氏は過去1年の講演で、長年にわたる積極的な国債購入は行き過ぎであり、連邦準備制度を「財政政策という厄介な政治の領域」に引きずり込むリスクがあると主張してきた。

他の候補者は、バランスシートについて一段と穏健な見方を示している。米資産運用大手ブラックロックのグローバル債券担当のリック・リーダー最高投資責任者(CIO)は、資金調達市場の不安定化を避けるため、当局は保有資産の圧縮をストップすべきだと指摘してきた。

ウォラーFRB理事も、連邦準備制度のポートフォリオ縮小の停止を支持している。ホワイトハウスのハセット国家経済会議(NEC)委員長の場合、金融政策に関する発言は、資産保有よりも金利に重点が置かれている。

短期金融市場は準備預金の状況がわずかに変化しただけでも敏感に反応しており、次期議長にはそのかじ取りが求められる。典型例としては、資金調達の逼迫(ひっぱく)を和らげるため、当局の介入を余儀なくされた2019年のケースが挙げられる。

その後、昨年終盤には資金調達市場のボラティリティーが急上昇し、レポ取引の金利が上昇。連邦準備制度の「常設レポオペレーション(SRO)」への需要が増加した。政府借り入れの増加に加え、金融当局が量的引き締め(QT)として知られる保有資産の圧縮を進めたことで、短期金融市場から資金が吸い上げられた。

こうした状況を受け、連邦準備制度は債券購入によって準備預金を金融システムに再び供給する方向に転換した。当局は短期金利の上昇圧力を和らげるため、昨年12月から月額約400億ドルのTB購入を開始した。

それでも、25年末にかけての市場の激しい変動は、連邦準備制度が不安定化を招かずにどこまで保有資産を圧縮できるのかについて、見解の相違を浮き彫りにした。

JPモルガン・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は「主要な手段は引き続きフェデラルファンド(FF)金利で、バランスシートは二次的な手段なのか。これは今も根源的な問いだ。新たなFRB議長が就任して、皆の見方を変えるよう説得できるのだろうか」と問いかけた。

連邦準備制度の積極的なバランスシート活用に対するウォーシュ氏の批判は、15年余りに及ぶ。同氏は08年の世界金融危機後に実施された最初の国債購入策を支持したが、その後は、再度の購入がインフレを加速させ、市場シグナルをゆがめるリスクがあると警告してきた。

さらに広い文脈では、連邦準備制度が長期間にわたり人為的に金利を低く抑えたことで、米政府債務の膨張を助長し、金融市場が当局の支援に過度に依存する状況を促したと、ウォーシュ氏は主張している。

これに対し、リーダー氏は昨年6月のマーケットウォッチのインタビューで、流動性を過度に引き締めて資金調達市場を不安定化させるのを避けるため、連邦準備制度はバランスシート縮小を終了すべきだと述べた。一方、ウォラー理事は昨年、一段と小さなバランスシートを支持していたが、短期金融市場に緊張が生じたことで方針を転換した。

板挟みも

トランプ氏は16日、それまで最有力候補と目されていたハセット氏を次期FRB議長に指名することに難色を表明。その後、予測プラットフォームでは、ウォーシュ氏が指名される確率が急上昇した。

TDセキュリティーズの米金利戦略責任者、ジェナディー・ゴールドバーグ氏は金利に加え、「次期FRB議長がバランスシートについてどう考えているかは重要だ」と指摘。「最終的には、バランスシート政策も金利と同様、連邦公開市場委員会(FOMC)で決定される」と話した。

ゴールドバーグ氏はさらに、ウォーシュ氏のバランスシートに関する直感的な考え方は、トランプ政権の政策と真正面から衝突する可能性があるとの見方を示す。「政権は何らかの形で利下げを求めている。タカ派的な金利観であれバランスシートに関する見解であれ、その点では歓迎されないだろう」と説明した。

パウエル議長の後任候補は、債券市場が財政リスクや流動性の状況に一段と敏感になる中でも、大幅な利下げを求めるホワイトハウスからの圧力に直面することになる。

JPモルガン・インベストメント・マネジメントのミスラ氏は「債券自警団が目を覚まし、政治の側も財政の重要性に気付き始めている。財政面の緩和が進む一方で、債券自警団が同時に反発する状況になれば、連邦準備制度は板挟みになる」と語った。

原題:Fed’s Balance Sheet Is Point of Tension as Trump Weighs Chair(抜粋)

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