社会保障制度改革国民会議:「報告書」は2025年を目安に据えた

2013年8月、安倍内閣(当時)が設置した社会保障制度改革国民会議は「社会保障制度改革国民会議報告書~確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋~」(以下、「報告書」という)を取りまとめた。

ここでは2025年の未来を展望し、「21世紀(2025年)日本モデル」と称する社会保障制度の将来像が提言されている。

2025年が目安に据えられたのは、団塊の世代(1947年~1949年に生まれた世代)が75歳以上となり、社会保障費用の増加や医療・介護等のニーズ拡大が不可避だと予測されたためだ。

日本の社会保障給付費(年金・医療・介護等)は2023年度に135.5兆円となった。「報告書」が公表された2013年度(110.8兆円)から約24.7兆円増加したことになる。

社会保障の給付・負担をめぐっては2026年の現在でも様々な議論が継続しており、社会的な関心が高い状況も続いている。

本稿では2025年が過ぎ2026年を迎えた今、「報告書」を改めて読み直し、特に介護分野に焦点を当てて内容を振り返る。

そのうえで、「報告書」が描いた「21世紀(2025年)日本モデル」にある介護の未来像に向けて、2025年までにどのような改革が行われてきたのかを整理する。

また、高市内閣が2026年に税・社会保障一体改革について国民会議の開催を検討している旨の報道があるが、この点についても私見を述べたい。

社会保障制度改革国民会議と「21世紀(2025年)日本モデル」

社会保障制度改革国民会議は2012年に「社会保障・税一体改革」に関連する法律が成立したことを受けて設置された政府(当時)の有識者会議である。

当時の与野党三党(自由民主党・公明党・民主党)の合意に基づき発足し、社会保障制度改革推進法に定められた基本方針に基づき、幅広い観点から社会保障改革の全体像を議論した。

メンバーは学識者や関係団体の代表等から構成された。約8か月間の審議を経て2013年8月6日に「報告書」が取りまとめられ、公表されている。

この国民会議の使命は、「社会保障・税一体改革大綱その他の既往の方針のみにかかわらず」「社会保障制度改革を行うために必要な事項を審議すること」だった。

日本の社会保障を持続可能な形に再設計するための議論において、一定程度の役割を果たしたともいえるだろう。

「報告書」では、年金・医療・介護・少子化対策といった幅広い分野の改革について方向性等が示された。また、消費税率の引き上げに伴う増収分について、活用の方向性が意見されている。

政府(当時)は、この内容も踏まえて2013年の秋に社会保障制度改革プログラム法(正式名称:持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律)を国会に提出し成立させた。

これ以降、「報告書」の提言内容も踏まえた個別分野の施策が進められることとなった。

「報告書」のキーワードとなった「21世紀(2025年)日本モデル」は、1970年代に確立された旧来の社会保障の枠組みである「1970年代モデル」を、21世紀の社会経済状況を加味したものへと「再構築」する構想である。

「報告書」では「1970年代モデル」を「右肩上がりの経済成長と低失業率」「正規雇用・終身雇用の男性労働者の夫と専業主婦の妻と子どもという核家族」が前提の社会で確立された「『現役世代は雇用、高齢者世代は社会保障』という生活保障モデル」だと示している。

これに対して「21世紀(2025年)日本モデル」は、「切れ目なく全世代を対象とする社会保障への転換」と示された。

従来の「高齢者世代は社会保障」とする考え方では、1990年代以降の日本の少子高齢化の進展、雇用の不安定化、夫婦共働きの増加といった社会経済状況の変化に適応できないため、「国民生活の安心を確保していく」ために「社会保障の機能強化を図らなければならない」という筋立ての説明がされている。

「21世紀(2025年)日本モデル」は、いわゆる「全世代型」の社会保障制度の実現を指した言葉だといえるだろう。

「21世紀(2025年)日本モデル」で示された未来の介護像

では、「報告書」は介護についてどのように記述しているだろうか。

示された未来の介護像は大きく2つの軸で整理できる。1つは、医療分野等も包括する地域ケア体制である「地域包括ケアシステム」の実現だ。そしてもう1つは、介護保険制度自体の構造的な改革である。

まず1つ目の「地域包括ケアシステム」は、厚生労働省の定義では「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される」体制を指す。

2025年を目途とする実現が企図され、「保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていく」体制だとされた。

「報告書」では「『医療から介護へ』、『病院・施設から地域・在宅へ』という流れを本気で進めようとすれば、医療の見直しと介護の見直しは、文字どおり一体となって行わなければならない」と提言されている。

介護に関する具体的な提言内容としては、「在宅医療と介護の連携を推進すること」といった記述がみられる。

例えば、医療機関への入退院と在宅生活を分断させず、病床機能分化(急性期・回復期・慢性期等の役割明確化)が進む中でも医療機関での療養と在宅ケアをシームレスに繋げる体制づくりの重要性が説かれていた。

2つ目の介護保険制度自体の構造的な改革については、「報告書」では「介護保険制度の持続可能性を高める」ことを目指し大きく2点が提言されている。

1点目は、介護保険サービスの「範囲の適正化等による介護サービスの効率化及び重点化」を図ることだ。

具体的には「要支援者に対する介護予防給付を新たな地域包括推進事業(仮称)に段階的に移行させていく」「利用者負担等の見直し(一定以上の所得のある利用者負担は、引き上げる)」「補足給付に当たっては資産(ストック)も勘案」「特別養護老人ホームは中重度者に重点化」といった記述がみられる。

2点目は、「低所得者をはじめとする国民の保険料に係る負担の増大を抑制」することだ。

具体的には「低所得者の第1号保険料について基準額に乗じることにより負担を軽減している割合を更に引き下げ、軽減措置を拡充すべき」「第2号被保険者の加入する医療保険者が負担する介護納付金について…(中略)…被保険者の総報酬額に応じたものとしていくべき」といった記述がみられる。

結びの文では、「負担の公平にも配慮しながら、介護保険料の負担をできるだけ適正な範囲に抑えつつ、介護保険制度の持続可能性を高めるため、引き続き、介護サービスの効率化・重点化に取組む必要がある」と総括されていた。

介護の「21世紀(2025年)日本モデル」は実現したか?

ここまで、「報告書」が提言する「21世紀(2025年)日本モデル」および未来の介護像を確認してきたが、「地域包括ケアシステム」の実現と介護保険制度自体の構造的な改革は、2025年までの間にどのように進展してきたのだろうか。それぞれ確認していく。

まず、「報告書」に記述された「在宅医療と介護の連携を推進すること」についてであるが、在宅医療と在宅介護の連携については、2015年度介護保険法改正において、市町村が実施主体である地域支援事業に「在宅医療・介護連携推進事業」(以下、「事業」という)として位置付けられることになった。

「事業」の運営について、例えば飯島ら(2016)は2016年の時点で「地域包括ケアシステム構築を各自治体において展開することが国の方針として定められ、在宅医療自体もかなり底上げされ、在宅医療介護連携推進も数年前よりも各地域で進捗を遂げていることは間違いない」と評している。

その後、2017年度には「地域の実情に応じ、取組内容の充実を図りつつPDCAサイクルに沿った取組を更に進められるよう」に「事業」のプロセスが見直され、2018年度には全ての市町村で「事業」が実施されることとなった。

2021年度の介護保険法改正では、PDCAサイクルに沿った在宅医療・介護連携の具体的な在り方が示された。

切れ目のない連携体制を構築するため、認知症の対応や災害・感染症発生時の対応といった具体的なケースでの連携強化についても推進が図られている。

次に、「報告書」に記述された介護保険サービスの「範囲の適正化等による介護サービスの効率化及び重点化」についてであるが、2015年度の介護保険法改正では要支援者に対する訪問介護・通所介護等が地域支援事業へ移行されることとなった。

また、利用者負担等の見直しについては、2015年8月から合計所得金額に応じて一部利用者の負担割合が2割に変更され、その後2018年8月からは一部利用者の負担割合が3割に引き上げられている。

他にも、2015年4月から特別養護老人ホームでは原則、新規入所者が要介護3以上の高齢者に限定されることとなった。

また、施設入居者の食費・居住費等の負担軽減制度である補足給付への預貯金等の勘案については、2015年8月から本人の申告を前提とする資産要件が追加されている。

最後に、「報告書」に記述された「低所得者をはじめとする国民の保険料に係る負担の増大を抑制」する対応についてであるが、第1号被保険者(65歳以上)については2015年4月、第1段階保険料率の適用者を対象に、保険料負担の軽減措置が講じられた。

その後、2019年4月には第1~第3段階保険料率の適用者に軽減措置の対象者が拡大している。

2024年度の介護保険法改正では第1号被保険者の保険料が9段階から13段階へと拡大されたが、第1~第3段階保険料率の適用者については、保険料上昇の抑制を図る措置が講じられている。

また、第2号被保険者(40~64歳)については2017年8月、加入する被用者保険の保険者が負担する介護納付金が加入者割から総報酬割へ段階的に移行することとなった。

2020年度以降は全面的に総報酬割が施行され、医療保険者ごとの第2号被保険者数の多寡に関わらず、被保険者負担の公平性が確保されるよう配慮されている。

「21世紀(2025年)日本モデル」の改革は道半ば

本稿ではここまで2013年の社会保障制度改革国民会議で取りまとめられた「報告書」を読み直し、特に介護分野に焦点を当てて内容を振り返った。

そのうえで、「報告書」が描いた「21世紀(2025年)日本モデル」に基づく介護の改革を整理した。

「報告書」で記述された介護に関する提言については、「報告書」公表直後の2015年介護保険法改正で措置されている事項も多く、2025年までの間に広く着手されてきたことが分かった。

一方、「報告書」が提言する介護に関する内容には、今でも継続的に検討されている事項も多い。「地域包括ケアシステム」については、2025年の社会保障審議会介護保険部会等で2040年に向けた「深化」が議論されている。

具体的には例えば、全国を大都市部、一般市等、中山間・人口減少地域の3類型に分類し、類型に応じたサービス提供体制を構築していくことで、人口減少やサービス需要の変化に柔軟に対応できる仕組みに発展させる考え方等が示された。

また、介護保険制度自体の構造的な改革については、「要介護1・2の訪問介護・通所介護等の地域支援事業への移行」、「ケアマネジメントの利用者負担の導入」、「利用者負担(2割負担)の拡大・資産要件の導入」といった事項に対して、様々な立場から多様な意見が示されている。

本稿では特に介護分野に焦点を当ててきたが、社会保障をめぐる議論はこれに限らず広範な観点からも継続されているし、社会的な関心が高い事項であり、引き続き検討が必要だ。

高市内閣が社会保障「国民会議」を設置か:「2040年日本モデル」への期待

2026年1月5日、高市首相が年頭記者会見で社会保障・税一体改革を議論する新たな国民会議を立ち上げる意向を示した。

会見では「税・社会保険料負担で苦しむ中・低所得者の負担を軽減し、所得に応じて手取りが増えるよう」にするための招集である旨が述べられた。

審議は超党派で、いわゆる給付付き税額控除の制度設計が主だという見方が強いが、介護を含めた社会保障全体の給付・負担の在り方について、踏み込んだ議論が行われることも想定され得るだろう。

この場合、中長期的な視点を持って社会保障のあり方を考える審議が望まれる。介護については、2040年には「団塊の世代」が90歳以上となり、要介護(要支援)認定者数は約900万人に達するとも推計される。

90歳以上の要介護(要支援)認定率が2024年時点で73.2%であり、他の年齢階級と比べて著しく高い割合となるためだ。 

2026年を迎えた今、これからの社会保障のあり方を考えるうえでは例えば、2013年の社会保障改革国民会議が掲げた「21世紀(2025年)日本モデル」の先となる「2040年日本モデル」を掲げた包括的な議論があっても良いかもしれない。

2013年の国民会議が約8か月間かけて社会保障全体について網羅的な審議を行ったように、新たな国民会議が税・社会保障の広範な事項に関する未来志向な議論の場となることに筆者は期待を寄せている。

※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 総合調査部 副主任研究員 須藤智也

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