アジアにとって、2025年はぱっとしない年だった。経済成長は鈍く、利下げを可能にするほどインフレ率が低かった。

もたつく景気拡大の下支えを狙った金融緩和が大半だったが、しぶしぶ行われた利下げもあった。

トランプ米大統領が4月に大規模な関税措置を発表すると、危機感が広がった。だが、各国政府が米政府との交渉で、痛みを伴うものの致命的ではない水準にまで関税を引き下げることに成功すると、警戒感は薄れた。

ホワイトハウスが設けた関税がもたらす真の打撃があるとすれば、それが実感されるのは26年になってからだろう。

予測は好調な年でさえ難しい。今の経済状況ではなおさらだ。今年の教訓と、来年に向け着目すべき動きを挙げる。

中国経済の予測困難

専門家による中国経済の予想は外れた。低成長を見誤ったからではない。25年の経済成長率は中国政府の目標である5%にぎりぎりで到達する見通しだ。

中国はデフレの瀬戸際にあり、不動産不況の傷跡は深く、設備投資は急減している。多くの専門家が読み違えたのは、政府や中国人民銀行(中央銀行)の政策対応だ。

共産党中央政治局が24年12月、成長刺激に向けた積極行動を示唆する表現を発すると、大手銀行は色めき立った。

しかし、そうした行動は取られなかった。人民銀は、ほとんど何もしないことで市場を驚かせた。このコラム執筆時点で実施された利下げは10ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の1回のみだ。

人民銀内の議論は不透明で、議事要旨や金利予測分布図、反対意見も公表されない。確実に言えるのは、中国経済が刺激を必要としているということだ。ただし、刺激策が実際に講じられると当てにしない方がいい。

中銀トップの行動

中銀のトップは支持を集め、制度上の制約を乗り越え、信認を保たなければならない。経済状況も考慮する必要がある。米連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長についての話ではない。タイ銀行のことだ。

積極的な利下げを求めるタイの政治家は今年、緩和路線の旗手を中銀トップに据える機会を得た。タイ中銀のウィタイ新総裁は前総裁を声高に批判してきた人物で、初めて主導する金融政策決定会合で利下げに踏み切るとの見方が強まっていた。

しかし、結果は違った。ウィタイ総裁下初の10月会合で、政策金利は1.5%に据え置かれた。同総裁はハト派的な発言はしたが、それまでの1年間に4回の利下げがあったことを強調し、新たな役割を学び、合意形成を進める時間を自ら確保した。

中銀トップ就任直後に政策が大きく動くことは少ない。FRBウオッチャーは心に留めておくべきだ。

中銀の独立性

政治から独立した中銀が優れた成果をもたらすという学術論文や講演は山ほどある。しかし、中銀の独立性が完全であることは、ほとんどない。中銀のトップは選挙で選ばれた政治指導者に任命され、政治プロセスの中でその地位を得る。

金融当局の意思決定に影響を与えようとする試みは忌避されるが、実際には起こり得る。

インドネシア銀行は、テクノクラート(専門官僚)の牙城だった。だが、昨年就任したプラボウォ大統領が今年9月にムルヤニ財務相を更迭すると、いくらか保護を失った。

中銀のペリー・ワルジヨ総裁は素早く利下げに動き、大統領の成長路線に全面的にコミットするとまで述べた。ルピアはアジアで最も弱い通貨の一つで、同中銀は下支えするため市場介入を続けている。

米大統領選を制したバラク・オバマ氏がかつて言ったように、選挙には結果が伴う。中銀は選挙結果と無関係ではいられない。

フォワードガイダンス封印

筆者は1年前、フォワードガイダンス復活の必要性を指摘した。生活費の上昇がほぼ正常化する中、借り入れコストの見通しに投資家の信頼を与え、市場の混乱を最小化する理にかなった手段だと考えたからだ。

だがオーストラリア準備銀行のブロック総裁は異なる見解だった。今年3回利下げしたが、その度に市場にガイダンスを与える考えから距離を置いた。

足元でインフレが再燃し、景気は過熱気味で、トレーダーが利上げを織り込み始めていた時点で、そこに踏み込まなかったブロック総裁の慎重さは賢明だった。

最近の豪統計では低成長や雇用の弱さが示され、利上げのタイミングが読みにくくなっている。

日銀利上げの答え

日本銀行は12月19日、政策金利を0.25ポイント引き上げて0.75%と、30年ぶりの水準に戻した。植田和男総裁は前回利上げした年初以降、追加引き締めに消極的な姿勢を示してきた。

しかし世界経済がリセッション(景気後退)を回避し、インフレ率が日銀の2%目標を上回る中で、利上げの好機と判断して動いた。

総裁任期の後半に入る植田氏は、現代において就任時より高い政策金利水準で職を去る唯一の日銀総裁になる可能性がある。大きな成果だ。日本経済は耐えられるのか。その答えは26年に出る。

(ダニエル・モス氏はアジア経済を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前はブルームバーグ・ニュースの経済担当エグゼクティブエディターでした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Easy Money Defined Asia in 2025. It Gets Harder Now: Daniel Moss(抜粋)

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