(ブルームバーグ):中国外務省は、高市早苗首相の台湾有事を巡る最近の発言で日本に滞在する中国人の安全に「重大なリスク」が生じたとして、中国国民に日本への渡航を短期的に控えるよう呼び掛けた。これに先立ち、中国政府系新聞は首相の発言を80年ぶりの中国に対する武力威嚇だと非難。日中間の緊張が高まっていた。
中国が問題視しているのは、台湾有事が日本の集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得るとした首相の発言。中国側は発言の撤回を要求している。
中国外務省は14日夜に発表した声明文で、「日本の指導者が台湾に関して露骨な挑発的発言を行った」と主張。「日中間の交流の雰囲気を著しく損ない、日本国内の中国人の身の安全に重大なリスクをもたらしている」と述べた。
これに対し木原稔官房長官は15日、中国側に申し入れを行い、適切な対応を強く求めたと、共同通信が報じた。木原氏は中国の対応は「日本側の認識と相いれるものではない。立場の違いがあるからこそ、日中間の重層的な意思疎通が重要だ」とも述べたという。
自民党の小林鷹之政調会長も同日、日本は「中国に対し何らこれまでの対応や向き合う姿勢を変えていない」とし、「冷静に受け止めるべきだ」と、秋田県内で記者団に話した。
エバコアISIの中国マクロ分析責任者ネオ・ワン氏は、日本への渡航自粛勧告について「中国人観光客の消費力という古い手段を使って、台湾に関する発言や姿勢を巡り高市氏が払う代償を重くしようとしている。中国にとって敏感な問題について、高市氏が一段と慎重な態度を取るよう日本国内で世論の圧力を高める狙いがある」と述べた。
中国政府の渡航自粛呼び掛けを受けて同国の航空会社では、日本行き航空券のキャンセル料を免除する動きが広がっている。中国国際航空は15日、東京、大阪、沖縄を含む日本の各都市行きの便について、15日から12月31日まで搭乗分の航空券の取消手数料を免除するとウェブサイトで発表した。朝日新聞によると、中国東方航空、中国南方航空も日本行きの航空便のキャンセルや変更手続きに、無料で対応するとの公告を出した。
日本の観光統計データによると、中国本土からの訪日客は今年1-9月で約750万人に達し、外国人観光客全体の約4分の1を占めた。
これに先立ち、中国の孫衛東外務次官は13日、高市氏の発言は「極めて誤った危険な」ものだと指摘。「中国の内政に著しく干渉」し、両国関係の基盤を損なうものだと述べた。中国共産党の機関紙、人民日報は14日の論説で、1945年の第2次世界大戦敗戦以降、日本の指導者による初の「中国に対する武力威嚇」だと表現した。
中国外務省は声明で、高市氏の発言について抗議するため、13日に日本大使を呼び出したことを明らかにした。孫氏は、高市氏に対し発言の撤回を求め、「さもなければ、全ての結果は日本が負わなければならない」と述べた。
人民日報は論説で、高市氏の発言を「極めて悪質」と非難。この論説は「鐘声」の署名で掲載されており、中国語で「中国の声」を意味する言葉と同じ発音だ。中国政府の外交方針を発信する際によく用いられる。
高市首相は7日の衆院予算委員会で、台湾有事に関し存立危機事態にあたる具体例を問われ、戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、存立危機事態になりうるケースだと考えると答弁。10日の予算委では、この発言を撤回しない考えを示した。

茂木敏充外相も14日の記者会見で、「撤回する必要はない」と明言した。
存立危機事態の認定は、友好国を防衛するために日本が自衛隊を派遣する際の法的根拠となるため、重要な意味を持つ。高市氏の発言は、日本が従来採ってきた台湾有事への対応に関する戦略的あいまいさから外れるものだ。
大使に強く抗議
高市氏の発言に対し、中国の薛剣駐大阪総領事は反発。産経新聞によると、同氏はX(旧ツイッター)に「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」と投稿。この投稿は現在、削除されたとみられる。
木原稔官房長官は14日の会見で、大阪総領事の投稿は「中国の在外公館の長の言論として極めて不適切と言わざるを得ず、強く抗議の上、改めて中国側の適切な対応を強く求めた」と語った。
また、14日午後に船越健裕外務事務次官が呉江浩駐日中国大使を外務省に呼び、総領事の発信に強く抗議したことを同省が発表した。呉氏は中国側の立場に基づく発言を行ったが、船越氏は日本政府の立場に基づき反論したという。
原題:China Discourages Travel to Japan in Taiwan Row Retaliation (1)(抜粋)
(7段落目に中国国際航空の発表などを追加します)
--取材協力:Nectar Gan、エディ・ダン、岩井春翔、長谷部結衣.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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