日本銀行が30日の金融政策決定会合で政策金利の現状維持を決めたことは、高市早苗政権下では金融引き締めが慎重に進められるとの見方につながり、外国為替市場では円安が進み、債券相場を支える要因となった。

政策金利の引き上げを支持した審議委員は前回と同じく2人にとどまり、市場関係者は今回の会合結果を利上げに慎重なハト派的な内容と受け止めている。ストラテジストら専門家によると、会合結果と展望リポートでの安定したインフレ見通しは2026年以前に追加利上げが行われる可能性が低いことを示唆したという。

【ストラテジストの見解】

ANZグループ・ホールディングスの為替ストラテジスト、フェリックス・ライアン氏

  • 田村直樹、高田創両審議委員のタカ派的な反対意見があるにもかかわらず、政策委員会のコンセンサスは依然正常化への慎重で注意深いアプローチを志向しているようだ
  • 鍵となる植田和男総裁の発言も、利上げについてデータ依存の慎重な姿勢を強調する可能性が高い。米連邦公開市場委員会(FOMC)の最近のトーンを踏まえると、ドル・円は短期的に高値圏で推移する可能性が高い
  • 慎重な日銀の姿勢と利上げペースの鈍化を市場が織り込むにつれ、ドル・円は150円台で堅調に推移する

TDセキュリティーズのマクロストラテジスト、アレックス・ルー氏

  • 日銀の経済見通しは25年度の国内総生産(GDP)と26年度の消費者物価指数(生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI)が若干上方修正されたが、昨年7月の更新からコピー&ペーストしたかのようだ
  • ドル・円は上昇したが、高市首相がハト派であるにもかかわらず、政策委員会で現状維持への反対がもう一人出ると市場が予想していたためだろう
  • 円高予想派は、植田総裁が昨日の米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長と同様、タカ派的なハロウィーンサプライズの再現を期待するだろうが、植田氏の最近の実績はハト派な内容ばかりだ

サクソ・マーケッツのチャル・チャナナ氏

  • 9月と同様に据え置きに対し2人の反対があり、来年はCPIが2%を下回ると予想され、GDP見通しが小幅に上方修正された今回の決定は、金融正常化の流れが緩やかで、慎重に進められるとの見方を裏付けるものだ
  • 為替の円安進行を防ぐため、植田総裁は今回の決定とややタカ派的なトーンのバランスを取る必要があるかもしれない

オーストラリア・コモンウェルス銀行のストラテジスト、キャロル・コング氏

  • 次回の利上げ時期に関するヒント得るには植田総裁の会見を待つ必要があろう。金融政策でハト派的なスタンスである高市政権と日銀のコミュニケーションについて、植田総裁が記者から質問を受けるのは間違いない
  • 政府からゴーサインを得た場合にのみ、植田総裁は利上げに対しより強いシグナルを出そう。そうでなければ、日銀は政策金利を引き上げるのは見通しが実現した場合に限るという見解を繰り返す可能性が高い

ロンバード・オディエ・シンガポールのマクロストラテジスト、ホミン・リー氏

  • 米連邦準備制度理事会(FRB)が前日示した利下げペースに関するシグナルに加え、日銀がきょう政策据え置きを選択したため、ドル・円は短期的に小幅な上昇余地があるとみている
  • ただし、日銀がドル・円の上昇に無限の忍耐力があるとは考えておらず、当局者が過去に大幅なドル高・円安に不快感を示してきた点を踏まえ、155円台後半が日銀の利上げを前倒しさせる重要な水準とみる

スタンダード・チャータードのストラテジスト、パク・チョンフン氏

  • 日銀会合前に市場は据え置きに反対するタカ派的な意見が増える可能性を想定していたが、声明はほぼ変更されなかったことに失望したため、ポジション調整が進んだ可能性が高い
  • 日銀が長期にわたり政策金利を維持すると市場が見なした場合、円売りポジションを増やす誘惑に駆られる可能性がある。前回の利上げから1年の1月を控えていることを踏まえればなおさらだ
  • しかし、円キャリートレードの源泉となるリスクリターンは悪い可能性も。日銀の利上げは常にライブであり、会合ごとに展開が変わるからだ

T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフストラテジスト

  • 日銀会合の結果は高市政権下で金融政策はタカ派化していかないとの市場の見方に即した形で、株式市場の安心感につながる
  • 市場で10月の利上げは無理でも12月との見方があった中、据え置きに2人しか反対票を投じていなかったことが若干ハト派と受け止められた
  • 時間の経過とともに日銀は利上げに向かっていくと市場で意識される中、前回から変化がなく、円が売られ、株価指数は上昇

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジスト

  • 日銀の金融政策が7対2で現状維持となり、6対3になることへの警戒感から売られていた債券はいったん買い戻される
  • おおむね上下にバランスしているという物価のリスク評価も変わらず、タカ派的な内容はなく、債券市場にとって安心材料になる
  • 26年度のコアコアCPIの見通し中央値が前回の1.9%上昇から2%上昇に上方修正され、レンジも切り上がっており、見通し期間の後半に物価目標が達成する確度が上昇したと読めなくもない
  • 植田総裁の会見は今回利上げしなかった理由に注目しており、利上げが12月になるか来年1月になるかはそれ次第

みなと銀行の苅谷将吾ストラテジスト

  • 植田総裁が会見で12月利上げを示唆しない慎重なトーンに終始すると、為替市場では円安が進み、ドル・円は10日の直近高値(153円27銭)を超える可能性がある
  • 植田総裁は従来の慎重なスタンスを変えないだろう。変われば外圧が影響したと捉えられかねない。外圧もあり、10月利上げを2割程度織り込んでいた部分が剥落して円安に振れている
  • 日銀会合の結果は大方の予想通り。現状維持への反対も2票と前回と変わらず、展望リポートも一部上方修正はあったが、中身はあまり変わっていない

--取材協力:日高正裕、山中英典、グラス美亜、Umesh Desai.

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.