坂口さんに聞く「免疫」の奥深さ がん治療の未来

藤森祥平キャスター:
ノーベル生理学・医学賞を坂口志文さんが受賞ということですが、どう感じていますか。

科学ジャーナリスト 寺門和夫さん:
日本の免疫学の研究はすごくレベルが高いんです。ですから非常に嬉しく思っています。

藤森祥平キャスター:
号外が配られたり、坂口さんのもとにも祝福の声が届いているかと思います。今、どんなお気持ちですか。

ノーベル生理学・医学賞 坂口志文さん:
本当にありがとうございます。大変、名誉な賞をいただいたと、本当に嬉しく思っております。

小川彩佳キャスター:
ご家族やご友人からは、どのような声が聞かれましたか。

ノーベル生理学・医学賞 坂口志文さん:
いろいろなメールが来ております。ちょうど受賞の電話をいただいたときに、そばに家内もおりましたもんですから、そういう意味では喜んでくれたと思います。

小川彩佳キャスター:
奥様とは共に研究をしてこられたんですよね。

ノーベル生理学・医学賞 坂口志文さん:
そうですね。アメリカが長かったものですから、その時代から日本へ帰ってきてからも、ずいぶん長く一緒の研究室で仕事をしてまいりました。

藤森祥平キャスター:
奥様とともに進めてきた免疫学の研究。「制御性T細胞」にのめり込んだその理由は何だったんでしょうか。

ノーベル生理学・医学賞 坂口志文さん:
私の一番最初の興味といいますか、それは、免疫は私達の体を守るわけです。ウイルスとか細菌とかから。ところが一方で、免疫が自分を攻撃すると「自己免疫病」。あるいは、過剰に反応すると「アレルギー」が起きるということで、いろいろな免疫病も起こすわけです。

良いところと悪いところの二つの面がありまして、そのメカニズムは何だろうということの研究を始めまして、それで行き着いたのが、実は免疫反応を抑えることに特化したリンパ球がいるんだと。

そのリンパ球の異常が起きると、過剰あるいは異常な免疫反応が起きて病気になるとか。あるいはそれをうまく減らすと免疫反応が高まりますので、がん免疫にも使えるとか。いろいろなことがわかってきて、そういう形で研究を続けてきたということになります。

科学ジャーナリスト 寺門和夫さん:
先生、受賞おめでとうございます。先生に一つ質問があります。

今回の制御性T細胞の研究で免疫のシステムというのは非常に複雑だということがよりわかってきたと思うんですが、この免疫のシステムの奥深さや不思議さ、こういったものについて先生は研究者としてどのように考えていらっしゃいますか。

ノーベル生理学・医学賞 坂口志文さん:
これはもう免疫学の歴史になりますが、北里柴三郎の時代に、破傷風などいろいろな感染症があって、抗体療法や、あるいはワクチンといったもので感染症を治すことができると。現在でも、COVID-19(新型コロナウイルス)に対して、免疫反応、いかにワクチンを作るかと、そういうことです。

同時に、実は免疫反応というのは、強くしたら良いというものもあれば、自分に反応して、押さえないといけないものもあり、両面があります。そういう意味での深さということです。

二つのバランスというのが崩れると、いろいろな病気になりますし、うまくそれを戻してやると疾患の予防にも繋がるということです。

その範囲がアレルギーとか自己免疫病のみならず、がんや肥満といった成人病、あるいはアルツハイマー病などの神経疾患にも重要ではないかと、広がりが出てきています。

ある意味、免疫の不思議さ、あるいは深さ、あるいはこれからもっと研究すべき方向性だと思います。

小川彩佳キャスター:
坂口さんは子どもの頃、どのような子どもでしたか。今に繋がっていると思うことはありますか。

ノーベル生理学・医学賞 坂口志文さん:
普通の子どもだったと思いますので何とも言えませんが、本を読むのが好きで、小学生の頃はクラスでただ一人眼鏡をかけてるという近眼でしたね。だから、その程度のことしか今には繋がっていないと思いますよ。

藤森祥平キャスター:
がん治療のこれから、未来について、希望的なお話があればぜひ教えてください。

ノーベル生理学・医学賞 坂口志文さん:
ご存知のように、がんの免疫療法というのは社会的にも注目を浴びております。

現在は、進行したがんに対して抗体療法をやるわけですが、本来、免疫というのは、例えばワクチンのように予防するということができるわけです。

私達が考えるがん免疫の将来というのは、がんが発見された時点から免疫反応を上げることによって、将来ひょっとして起こるかもしれない転移などを抑えられれば…。現在、がんで亡くなる方の90%は転移です。

どんながんであれ免疫反応を高めて、その(転移の)可能性を低くすることで、がんの転移で亡くなる方が、もし半分になれば、半分のがんの患者さんが救えるわけです。

がんの治療法としては、がんと発見されたその日から始められるような、がん免疫療法が重要だと思います。これから研究すべきことだと思っております。

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<プロフィール>
坂口志文さん
ノーベル生理学・医学賞を受賞
大阪大学特任教授

寺門和夫さん
科学ジャーナリスト
医学・生物学から宇宙まで幅広く取材
科学雑誌「ニュートン」副編集長など歴任