(ブルームバーグ):トランプ米大統領は政権1期目で米国の対中政策の常識を覆し、対立姿勢を強め、貿易戦争を仕掛け、数十年にわたる外交方針を転換した。だが2期目に入り、米政権内の対中強硬派の間では、トランプ氏が軟化しているとの懸念が広がっている。
トランプ氏は米国最大の経済・戦略上の競争相手国である中国との貿易合意を模索している。テック業界の影響力が強まり、トランプ氏が「ビッグディール」への意欲を高める中、政権内では対中強硬派が軽視されつつあるとの見方が出ている。
数週間以内に予定されるトランプ氏と中国の習近平国家主席との対面会談を控え、この懸念は一段と高まっている。会談に先立ち、中国側は大型投資確約を引き換えにした対中規制の緩和や台湾独立への「反対」表明の要請など数十年にわたる米国の政策を覆すような要求を突き付けている。

さらに懸念を深める要因として、トランプ氏がすでに対中強硬派の警告を退け、動画投稿アプリ「TikTok」の米国事業を巡る合意や、エヌビディアが人工知能(AI)向け半導体の一部を中国に販売する計画を容認している点がある。
トランプ氏は国家安全保障会議(NSC)から対中強硬派のアドバイザーを多数排除し、NSCの役割を弱体化させた。安全保障や技術の専門家の間では、中国との関係強化を求める勢力に対抗する人材が政権内から消えつつあるとの懸念が広がっている。
トランプ政権1期目にNSCで対中政策を統括したマット・ポッティンジャー氏は「今の中国政府は絶好の立場にある。ホワイトハウスはTikTokを巡る政策や半導体輸出規制の緩和が中国共産党への大幅かつ一方的な譲歩であることを理解していないようだ」と述べた。
トランプ氏がロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記など、国際的に孤立する指導者とも取引に前向きな姿勢を示してきたことを考えれば、トランプ氏の姿勢はある意味、驚くべきことではない。ただし、米中両国の経済的結び付きの強さやAI・半導体・サイバー技術での競争を踏まえると、中国との関係ははるかに重大な意味を持つ。
トランプ氏は国家安全保障を理由に、アルミニウムや鉄鋼、キッチンキャビネットなど幅広い輸入品に関税を課してきた。一方、1期目には国家安全保障という「口実」の使い過ぎで米企業の中国との貿易を制限するのは望ましくないとの考えを示した経緯もある。
先週にはエヌビディアの最高経営責任者(CEO)、ジェンスン・フアン氏がポッドキャストのインタビューで、対中強硬派を批判したことで緊張が表面化。フアン氏はトランプ氏の非公式なテック・対中政策アドバイザーとして影響力を強めており、強硬派を「恥というバッジ」を付けた非愛国者だと発言した。フアン氏の擁護派はその後、文脈を無視して発言が引用されたと主張している。
これに対し、政権1期目で大統領首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏はフアン氏が「中国共産党の影響を受けた工作員だ」として逮捕を要求。トランプ氏を支持するテック投資家、ジョー・ロンズデール氏も「中国共産党は邪悪で残虐な独裁政権だ」とSNSに投稿した。
一方、フアン氏やトランプ氏のAI・暗号資産政策を統括するテック投資家、デービッド・サックス氏らは、強硬派の見解は誤りだと強調。中国企業を米国製の技術に依存させることが米国の利益につながるとし、そうすることで中国企業が他の市場で米企業を圧倒する力を持つことを防げると説明している。
サックス氏はインタビューで「政権内で対中強硬派と経済界が対立しているという見解は誤った二元論に基づいている。われわれは皆、中国に対してAI競争で勝たなければならないという点で一致している。問題は戦術だ。われわれは、米国のイノベーション、インフラ、エネルギー、輸出を支援することが勝利への道だと考えている」と述べた。

ホワイトハウス当局者は、トランプ氏が依然として対中強硬姿勢を維持していると強調している。今年、中国製品に高関税を課したことを例に挙げ、トランプ氏は商業的利益と国家安全保障を両立できると主張している。
ホワイトハウスのアナ・ケリー報道官は電子メールで「大統領は習主席と良好な関係を持ち、それを生かして米国民に利益をもたらす成果を実現しようとしている。国家安全保障を損なうことなく数多くの米国民と企業のためにTikTokを救うディールはその一例だ」と述べた。
ルビオ国務長官やバンス副大統領など中国懐疑派は依然として政権内に存在するが、大半が中国政策について沈黙を守っている。
政権内にいる長年の対中強硬派の間では、足元の議論は中国に対する強硬姿勢の必要性について超党派の合意が生まれた政権1期目以前の状態に戻ったかのようだとの声も出ている。
アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のデレク・シザーズ氏は「今政策を動かしているのは、トランプ氏が2015年に政策の論調を変える前に対中政策を主導していたのとほぼ同じ勢力だ。皮肉なのは、トランプ氏自身が対中政策の論調を変えた張本人なのに、その流れが今、トランプ氏の在任中に逆転していることだ」と語った。
原題:China Hawks Grow Queasy Over Trump’s Push for Deals With Beijing(抜粋)
--取材協力:Bill Allison、Michael Shepard、Ian King、Joe Deaux.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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