6日の日本市場では自民党総裁選で高市早苗前経済安全保障担当相が予想外の勝利を収めたことを受け、円相場は下落して取引を開始。景気刺激的な政策への期待を背景に株式相場は上昇が見込まれる一方で、超長期国債には売り圧力がかかるとの見方が広がっている。

円は早朝の東京市場で一時、前週末のニューヨーク終値比1.5%安の149円62銭まで下落した。みずほ銀行国際為替部の長谷川久悟マーケット・エコノミストは、目先150円まで円安が進む可能性があるとみる。ただ、高市氏が以前ほど強硬に金融緩和の維持を主張してないことに加え、米政府が円安を警戒していることもあり、そこから大きく円安が進む可能性は低いと指摘する。

高市新総裁

高市新総裁は安倍晋三元首相の「アベノミクス」路線を継承し、景気刺激を重視する一人。金融・財政両面で緩和的な同氏の政策姿勢は、株式には支援材料となる。一方で、追加利上げには慎重で、日本銀行による10月利上げ観測が後退する可能性がある。

コムジェスト・アセットマネジメントのポートフォリオマネジャー、リチャード・ケイ氏は、日銀の利上げ観測の恩恵を受けてきた銀行株について「再び軟調となる可能性がある」と指摘しつつ、「内需株や小型株は短期的に大きな追い風を受けるだろう」と予測。アベノミクスへの回帰を示す兆しがあれば、市場参加者や海外投資家はそれを歓迎するとみている。

株式にとってはポジティブなサプライズになるとみるバンエック・オーストラリアのクロスアセット・インベストメント・ストラテジスト、アンナ・ウー氏は、高市氏の財政政策を踏まえると、償還期間が長い国債の利回りが「やや上昇しても驚かない」としつつ、過度な景気刺激策に踏み込む可能性は低く、市場の変動は限定的になるとの見方を示した。

総裁選前の市場では、報道各社や海外予測市場の情報を材料に小泉進次郎農林水産相の勝利が有力視され、財政規律を重視し、日銀の政策正常化を後押しするとみられていた。

もっとも、石破茂首相が先月退任の意向を表明した直後には、高市新総裁を期待する「高市トレード」が進行。株式では金利上昇が追い風の銀行株から借入依存度の高い不動産株へ資金がシフトし、国債市場では財政出動への警戒感から10年債利回りは2008年以来の高水準で推移。全ての年限で国債利回りが上昇すると、円相場では日米金利差の縮小を意識した円売りが加速する一方、世界的なハイテク株高を受け日経平均は史上最高値を更新した。

安倍元首相の側近でもあった高市新総裁の就任で、日本経済が再びアベノミクス路線に回帰するとの見方が浮上している。高市氏は、防衛費など必要な投資には赤字国債の発行も選択肢としており、野党が求める消費税減税も排除しない姿勢だ。

英国で日本株の調査会社を率いるペラム・スミザーズ氏は「債券市場は、高市氏の成長重視の政策が財政赤字を拡大させないことを確認したがっている」と述べ、その場合でも円売りが促される可能性があると指摘した。 ただ「円高を見込む投資家は、財政拡張を日銀がより積極的な金融引き締めで相殺する可能性が高まっている点を指摘するかもしれない」と語った。

野村証券の岩下真理エグゼクティブ金利ストラテジストは、市場参加者の多くが小泉氏の勝利を前提にしていたため、「金融市場は波瀾(はらん)万丈の世界に放り込まれてしまった」と話す。円安と株高に加え、国債利回り曲線が傾斜(スティープ)化する「高市トレード」が復活すると予想し、「10月の利上げ観測が後退すれば、日銀があえて利上げに踏み切ることはないだろう」とも述べた。

オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場では6日6時半時点で10月利上げの確率が約60%織り込まれている。

三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストは、高市氏は日銀利上げにそれほど理解を示さないとの認識で「10月利上げの織り込みが多少後退するだろう」と話す。6日の債券市場では2年、5年金利を中心に低下し、超長期金利は上昇するとみている。

--取材協力:堤健太郎、我妻綾、アリス・フレンチ、山中英典.

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