(ブルームバーグ):米労働市場が減速局面に入ったことを確認するのに、投資家は政府の公式な雇用統計を待つ必要ない。
米労働統計局(BLS)が3日に予定していた雇用統計は、政府機関閉鎖により発表が見送られた。ただ、ここ数日に公表された複数の民間指標では、新規雇用は低迷し、解雇は限定的にとどまる一方で賃金の伸びは緩慢、労働需要は鈍化しつつあるという9月の雇用動向が示唆された。

これらの数字は、政府統計の停止される前から見られた「雇用も解雇も低水準」という状況とおおむね一致する。こうした傾向が月末まで続けば、投資家の予想通り、連邦準備制度理事会(FRB)が今月下旬に追加利下げに踏み切る十分な論拠となり得る。
JPモルガン・チェースのチーフエコノミスト、マイケル・フェローリ氏は「雇用統計がなくとも、労働市場の動向を直感的に把握できる」と指摘。「現状を全て踏まえれば、FRBは今月下旬の利下げを正当化できるだろう」と述べた。
労働市場の最新データは以下の通り:
失業保険申請件数
先週の新規失業保険申請件数は前週から小幅に増加したと、ゴールドマン・サックス・グループは連邦政府の閉鎖期間中に公開された州別データを基に分析した。
ヤン・ハッチウス氏らゴールドマンのエコノミストによれば、新規失業保険申請件数(9月27日終了週)は約22万4000件と、前週の21万8000件から増えた。同社は労働省が事前に公表していた季節調整要因を用いて、利用可能な州別のデータを調整した。
労働省は政府閉鎖の影響で2日に同週間統計を発表しなかったが、大半の州についてはダウンロード可能なデータを公開した。
ゴールドマンの分析によれば、失業保険の継続受給者数(20日終了週)は191万人と、前週の193万人から減少した。
新規採用
今週最も注目を集めた労働市場関連の統計は、ADPリサーチ・インスティテュートの民間雇用者数だ。ただし、エコノミストはADPのデータに懐疑的な傾向がある。政府発表の数字と常に一致するわけではないからだ。さらに今回は、統計上の調整が加えられたことで数値の解釈が一段と難しくなった。
9月のADP民間雇用者数は前月比3万2000人減少。8月分は3000人減(速報値5万4000人増)に下方修正された。この数字は労働市場の弱さをやや誇張している可能性があるが、ADPは最近の採用トレンドに変わりはなく、ほとんどのセクターにおいて雇用創出は失速を続けていると指摘した。

ADPのような民間統計は、政府雇用統計の先行指標としての位置付けを目指しているわけではない。それでも投資家は、その一致度合いを一つの判断材料としている。全米の労働力を反映し、就業者全体の3分の2をカバーする1億件超の米国の職務プロフィールを基に分析するリベリオ・ラブズによれば、9月の雇用者数は約6万人増加した。
エコノミストはリベリオの数字を予測対象にしていないが、政府統計の非農業部門雇用者数については9月に中央値で5万3000人増と予想。リベリオのモデルでは、BLSの指標は9月に3万8000人増にとどまったと試算された。
「総合的にみれば、労働市場は依然として拡大しているが、失速寸前にあることが示唆される」とリベリオはリポートで説明。「現時点で、労働市場は安定しているものの脆弱(ぜいじゃく)だ」と記した。
米供給管理協会(ISM)によると、製造業の雇用は2023年初め以降、3カ月を除いて縮小圏で推移している。3日に発表された9月の非製造業雇用は4カ月連続で縮小した。
シティグループのエコノミスト、ベロニカ・クラーク氏は「景気抑制的な政策金利、関税コストによる利益率圧迫、政府による支出や雇用の削減、移民減速に伴う需要軟化といったファンダメンタルズ要因を踏まえると、採用活動は今年さらに一段と縮小する可能性がある」とリポートで分析した。
中小企業向けに人材管理ソフトウエアを提供するホームベースのデータでは、9月の雇用者数は約15万人の「まずまずの増加」となったことを示唆していると、ブルームバーグ・エコノミクスは2日のリポートに記した。
チャベスデリマー労働長官は3日、BLSは9月の雇用統計を政府機関が再開され次第公表すると、FOXビジネスで述べた。
求人件数
求人件数は2022年にピークを付けて以降、減少傾向が続いた後、この1年ほどは安定して推移している。政府閉鎖前の9日30日にBLSが公表した、8月の求人件数はほぼ変わらずとなる一方、採用は低調だった。労働需要が徐々に減退していることを示唆している。
回答率の低さや時に大幅な改定を伴うことから、エコノミストの一部は求人件数データの信頼性に疑問を呈している。求人情報サイトのインディードが日次で公表する別の指数によると、8月の求人はほぼ横ばい。9月は一段と顕著に減少していることが示された。

ネイビー・フェデラル・クレジット・ユニオンのチーフエコノミスト、ヘザー・ロング氏は「雇用市場はここ1年近く停滞しており、求職者にとって状況はさらに悪化しつつあるように見える」と顧客向けリポートで指摘。「米国民はこの経済に縛られて身動きが取れないと感じている」と続けた。
センチメントの指標も同様の傾向を示している。ニューヨーク連銀がまとめた求職者を取り巻く見通しは8月に過去最低を記録。民間調査機関コンファレンスボードが9月に実施した調査でも、消費者の雇用見通しは同様に悲観的だった。求人サイトのグラスドアによれば、労働者全般の信頼感は9月にやや持ち直したが、2022年のピークをなお大きく下回っている。
失業率、解雇
足元の労働市場でプラスの側面は、雇用の低迷が解雇の増加にまだつながっていないことだ。9月の米失業率は4.3%にとどまったとみられており、年初からは上昇したものの、依然として歴史的に低い水準にある。
シカゴ連銀がBLSのデータを一部利用して算出するリアルタイムの失業率予測も、同様の数字を示した。同連銀のグールズビー総裁は1日、この指標を評価しつつも、政府閉鎖で公式統計が得られないのは政策当局にとって「問題だ」と述べた。

民間再就職会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスのデータによれば、9月の企業人員調整計画では採用と解雇の両方で縮小が見られた。発表された雇用計画は、9月としては2011年以来の低水準となった。
賃金の伸び
賃金の伸びはなお続いている。BLSのデータによれば2023年半ば以降、平均してインフレ率を上回ってきた。ただし直近では、その差は縮小している。ADPの統計では、転職者の賃金上昇は減速が続いた一方、同じ職にとどまった労働者の賃金はほぼ変わらない伸び率だった。
これに対し、リベリオの数字はより厳しい賃金動向を示した。新規求人の給与水準は9月に前月比0.3%低下し、3月以来のマイナスとなった。

原題:Next-Best US Jobs Data Show ‘Steady But Fragile’ Job Market (2)、US Initial Jobless Claims Edge Up to 224,000 in Goldman Analysis(抜粋)
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