接戦の自民党総裁選を前に世界のヘッジファンドが静かに動き出した。市場のゆがみに乗じて利益を狙う戦略で、株売りや円高への賭け、リスク回避の動きが広がる。

新たな日本のリーダーを選ぶ日が迫ってもなお、自民党国会議員や総裁選有権者に対する報道各社の調査では小泉進次郎農林水産相、高市早苗前経済安全保障相ら有力候補者の勝負の行方は見えず、市場を不透明感が覆っている。政策の違いを踏まえれば、4日の総裁選の結果は経済規模でアジア2位の市場に長期的な影響を及ぼす可能性が高い。

東京に拠点を置くヘッジファンドのエピック・パートナーズ・インベストメンツで最高経営責任者(CEO)を務める武英松氏は、勝者が決まった後の一時的な市場価格のゆがみを突く考えで、高市氏の勝利で日本株相場がお祭り騒ぎになっても買わずに売り場を探し、小泉氏でも同様だと明かす。「誰が総裁になっても基本は変わらない。動いても、結局株価は元に戻る」と語った。

経済成長には金融緩和の維持が必要とする高市氏は、財政面では赤字国債の発行も辞さない構えで、新総裁に選ばれれば日本銀行の利上げペースは緩やかになり、国内金利動向に影響を及ぼすと市場ではみられている。小泉氏は若手の改革派で、賃金や生産性の向上に熱心というのが投資家の受け止めだ。このほか、林芳正官房長官らも立候補している。

トレーダーや運用者にとって判断を難しくさせているのは特に高市、小泉両氏が昨年の総裁選と比べ先鋭的な姿勢を抑えている点だ。昨年の決選投票では金融政策に中道的だった石破茂首相が高市氏に逆転で勝利しており、今回高市氏は日銀の利上げ否定発言を封印している。小泉氏も加藤勝信財務相を選挙対策本部長に起用するなど、世代を超えて党内融和を図る。

オーストラリアのヘッジファンドであるK2アセット・マネジメントは、総裁選後に進むと予想する円高局面での利益獲得を狙う。調査責任者のジョージ・ブーブラス氏は「円高を見込んだ構造的なポジションを取っている」と述べ、一部の日本株投資では為替ヘッジを外し、対応していると言う。日本の選挙は取引しづらいが、「独特な政治構造に合わせて調整することが重要」とみている。

英運用会社オービス・インベストメント・マネジメントの日本法人で社長を務める時国司氏は、高市氏が勝った場合の市場の混乱を待ち構える一人だ。「一時的に円は下落し過ぎる可能性がある」とし、適正価格から乖離(かいり)すればするほど投資リータンを得られる確度は高まるため、保有する内需関連株の買い増しを検討するかもしれないと述べた。

市場参加者の相場予測が分かれ、市場にゆがみが生じている現状は米商品先物取引委員会(CFTC)のデータからも明らかだ。円を買うアセットマネジャーと円を売るヘッジファンドの差は、9月に2007年以来の水準に拡大した。

一方、シティグループの分析では通貨ファンドの円ポジションの指数が6月以来の低水準に落ち込み、円売りポジションの積み上がりを示唆している。通貨オプション市場でも円安・ドル高をヘッジするコストが円高・ドル安のヘッジコストを一時上回った。

不確実性を嫌う投資家の一部は、リスク回避の姿勢で臨む。シンガポールのヘッジファンド、ブルー・エッジ・アドバイザーズでポートフォリオマネジャーを務めるカルビン・ヨー氏は実物資産の金に分散投資していることを明らかにした。為替に関しては「これまでは円を売っていたが、今は中立にして結果を待っている」と話す。

米国政府機関の閉鎖も懸念材料となり、金価格は1日の取引で一時1オンス当たり3895ドルと最高値を更新した。

東京に拠点を置くアトム・キャピタル・マネジメントを率いる土屋敦子氏は、総裁選よりも日銀の利上げタイミングを注視していると言う。「年内に米国が追加利下げするのかどうかを見てからでないと日銀も動きづらい」とし、12月の可能性が高いと予想する。

日本の銀行株は既に10月の利上げが織り込まれ、むしろ調整局面に入るとみており、ポジションはロング(買い)を維持しつつ、ショート(売り)でヘッジしていると説明した。

--取材協力:Michael G Wilson、近藤雅岐、古澤百花、田村康剛.

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