(ブルームバーグ):石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成するOPECプラスが8月分の増産幅拡大を決定したことで、今年終盤に見込まれている原油供給過剰は一段と深まる見通しだ。決定は燃料価格の引き下げを求めていたトランプ米大統領の要望に応えた形となるが、世界の産油国に価格下落圧力がかかりそうだ。
OPECプラスは、少なくとも短期的には供給拡大が市場に吸収されるとみており、決定後にサウジアラビアが代表油種のアジア向け8月価格を引き上げたことはこうした自信の表れと言える。ただ、5日の予想外の決定以前から、世界の原油市場には冬場の供給過剰が迫っているとの見方が出ていた。
UBSグループのアナリスト、ジョバンニ・スタウノボ氏は「現時点では市場は引き続きひっ迫しており、追加供給を吸収できる状態にある」と分析。その上で、「ただ、貿易を巡る緊張が続くなどリスクが高まっており、今後6-12カ月で需給が緩み、価格下落につながる可能性がある」との見方を示した。
OPECプラスの当局者は、夏場の需要を楽観視の根拠に挙げる。米国では主要備蓄拠点のオクラホマ州クッシングで原油在庫が減少しており、価格指標のスプレッドからも現時点では供給過剰の兆しは見えない。さらに米国のディーゼル在庫は急減している。
北半球では夏場に燃料需要がピークを迎えるため、OPECプラスは、ここ数年間で米国のシェール企業などに奪われた市場シェアの奪還を加速させる好機とみている。
とはいえ、今回の決定は世界の原油供給の軌道を大きく変える。OPECは、今回の追加供給が12月までの需要に見合うと見ているが、他の機関は懐疑的だ。国際エネルギー機関(IEA)は今回の決定以前から、10-12月(第4四半期)に世界の消費の約1.5%に相当する供給過剰が生じると予測していた。
ロンドンの原油先物相場はここ2週間で11%下落し、イスラエルとイランの対立の影響も限られた。これはトレーダーが追加供給の必要性に懐疑的であることを示している。ゴールドマン・サックス・グループやJPモルガン・チェースは、中国の消費減退やトランプ関税による経済の不透明感から、年内に原油価格が1バレル=60ドル近辺まで下落すると予測している。
原題:OPEC’s New Supply Shock Nails On Oil Market’s Return to Surplus(抜粋)
--取材協力:Salma El Wardany、Fiona MacDonald、Nayla Razzouk.
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